4-(6)-1 グローバル調達の効果とリスク

・グローバル調達の考え方

初めて海外に行ったときに、半導体の精密部品を生産しているのにも拘らず、スリッパを履きTシャツで作業している工員を見せられたら誰だって海外からの調達に懐疑的になります。クリーンルームはあるのですが、その格好で通過してもどれだけ効果が見込めるかなんて分かったものではありません。それに、作業室には違う扉があって、そこから作業者は自由に出入りしていました。もちろん、そちらにはクリーンルームなど存在しません。

はんだ付けの作業はかなりの熟練を要しますが、そこの作業者はどう見ても乱雑にやっているようでした。「はんだ付け作業者の認定はどうやっているのか?」、「はんだ付け作業の教育体系は?」と訊いても、「何だ、それは?」と逆に効いてきそうな雰囲気です。軽く卒倒しそうになりました。

中間工程不良がばんばん出ていたのですが、そんなことはお構いなし。そのサプライヤーは「価格を見ろ。こんなに安いだろ」と自慢してはばかりません。日本の有名電気メーカーもそこから調達しているということでしたが、真偽のほどはわかりませんでした。そのサプライヤーは、数年後には市場から消えたという話を聞いたのみです。

いや、この程度の話であれば、どこにでも笑いのネタとして転がっているのかもしれません。私が自己の例を挙げたのは、昨今の「なんでも海外から調達せよ」ブームに一石を投じたいためです。

まず、グローバル調達というときの交通整理をせねばいけないと思います。グローバル調達というときは、次の二つに分かれます。

  • 現地調達
  • 海外からの調達

の二つです。現地調達とは文字通り、現地で生産するものに対して、現地のサプライヤーから調達することを指します。「日本のメーカーは日本のサプライヤーから調達すべきか?」という疑問がないように、輸送費やコミュニケーションを考えても効率的なことは間違いありません。経済のボーダレス化に応じて、現在は世界中に広がっていくバイヤー企業も、それに追従するティア1・2サプライヤーもたくさんあります。

しかし、です。大企業のグローバル調達のことを称える新聞記事を読んで、すぐに「海外から買ってこい」は違うだろうと言いたい。それはあくまで、現地最適という意味で、「現地で買えるものはローカルサプライヤーを活用している」ということです。別に大企業が海外から日本への調達を妄信的に進めていると言っているわけではありません。

私が問題にしたいのは、文化も通貨も地理的にも異なる二国間の取引における必要性とリスクについてです。いつの間にかLCC(ローコストカントリー)という言葉まで生んでしまったこの「海外からの調達」を推進する際には、メリットだけではなく、デメリットも同じように考慮してやる必要があります。

必要性については、黒板に書いたとおりです。

  • コスト
  • 技術
  • リスク分散

の3点が考えられます。付記しておくならば、やや否定的に書きました品質レベルも国によってはかなり向上していることは否定できません。特に日本企業と付き合いを重ねているサプライヤーはコスト優位性・品質を向上させ日本のサプライヤーと拮抗・凌駕しているところもあります。また、インドの技術力・開発スピードはかなりすごいものです。特にIT・システム構築の分野では、日本のサプライヤーの金額・開発期間半分以下で納入できるところがあふれています。

そういった意味でも、海外からの調達の必要性が下がったわけでは決してありません。しばらくは抗じがたい魅力を放っていくはずです。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい