4-(1)-2 サプライヤーの入れ替えが企業に新しい発想をもたらす
・新規サプライヤーの参入はバイヤーのモチベーションを上げる
さて、新規サプライヤー参入による、もう一つの大きな効果は、バイヤーのモチベーションを上げるということです。いつもお決まりのサプライヤーとしか取引をしていなければ、そこには停滞感が生まれてきます。見積り依頼を送付する、見積りの交渉をする、注文書を発行する、受領書を発行する……、という一連のプロセス自体が硬直化してしまい、そこにはその仕事自体の存在意義を問う機会がなくなりがちです。いつも決まりきった作業ばかりやっていれば、どうしてもモチベーションは下がってしまいます。「自分がいてもいなくても同じ」と自虐的になってしまうバイヤーが多いのは、このマンネリ感にあります。
それが、定期的にサプライヤーを入れ替えるということになれば、どうなるでしょうか。まずバイヤー業務を、「バイヤー企業に売り込みたいサプライヤーの中から注文先を選ぶ」という受身の行為から、「バイヤー企業が買いたいサプライヤーを口説く」という能動的な行為に定義しなおす必要が出てきます。これまで、売り込みのあったところや既存サプライヤーとしか付き合っていなかったところを、自分たちが積極的に新たなサプライヤーにアプローチし取引を開始せねばならないとなれば、バイヤーはこれまでの意識を変えるほかありません。
バイヤーたちは、日々の業務の中で忘れかけていた「自社のビジョン」や「調達・購買方針」、あるいはそのサプライヤーの部品を組み込む「製品背景」等々をサプライヤーに説明してやる必要が出てきます。「自分たちの会社や組織はどういうところで、どういうビジョンを持っていて、どういう製品を作っていて、こういう理由であなたたちの部品を使いたいんだ」ということを伝えるのです。効果的な勉強方法に「誰かに教える」というものがあるそうですが、まさにサプライヤーに教える・伝えるという行為を通じて、バイヤー自身を向上させることができます。
自社のことを「それなりに名前が知られている企業」と思っていても、サプライヤーに名刺を渡せば「おたくのこと知らないなあ」と言われたり、あきらかに興味がない怪訝な顔をされたりすることもあります。そこで、自社の調達・購買方針を語り、自分がバイヤーとして何を考えているのかを伝え、自社の魅力を分かってもらうのです。金銭勘定がシビアになった時代ではありますが、実際に会ったバイヤーから受ける印象で、サプライヤー企業の戦略や熱意が変わることは良くあります。バイヤーを通じて人的魅力や将来の可能性を感じてもらって、心突き動かされるサプライヤーはいるのです。まだ、「勘定」より「感情」が作用することもあるということですよね。
サプライヤーをこちらに振り向かせる、とはまさに自社の営業活動を行うことです。そういう活動を主に担当する業務であると認識することでもあります。その認識の上、業務を遂行していけば、バイヤーは様々な問題にぶつかることになるはずです。これまで説明したことのない自社状況を話そうと思えば、自社全体の概要把握が必須になります。また、調達・購買方針について突っ込まれれば、深く理解し自分の考えがなければ、口ごもるだけです。
私見ですが、系列企業との取引を繰り返している大企業のバイヤーよりも、中小企業のバイヤーの方が、自社の立ち位置と実力に自覚的な人が多いようです。おそらくそれは、大企業が良くも悪くも特定(系列)企業との取引にがんじがらめにされている一方で、中小企業はこれまた良くも悪くも様々なサプライヤーと付き合う必要性があり、その過程の中で「サプライヤーを口説く」経験を重ねざるを得なかったからではないでしょうか。もちろん、中小企業の中にも横柄な態度を取り続けて加齢していく方もいらっしゃいますが。
サプライヤーの定期的な入れ替えによる、新規サプライヤーの参入とは、単にモノの調達という意味には留まりません。そこには、バイヤー企業とバイヤー個人を活性化する機械にあふれています。それはバイヤー企業の中の緊張感を醸成し、バイヤーのモチベーションをアップさせる一つの方策なのです。