4-(1)-1 サプライヤーの入れ替えが企業に新しい発想をもたらす

・サプライヤーの入れ替え効果

日々の調達活動を行なっていると、どうしてサプライヤーごとのQCDDパフォーマンス(品質・コスト・納期・開発)に差が出てきます。多くのバイヤー企業では、毎期サプライヤーのQCDD評価を実施し、その結果をサプライヤーに提示することによって改善を促しているはずです。

この評価方法については6-(3)で詳しく述べる予定ですが、どうしてもQCDD、あるいはバイヤー企業に対する姿勢を改善できないサプライヤーが出てきます。高度に発達した自由主義経済社会においては、企業が市場に提供する製品を日々刻々と向上させる必要があるため、どうしてもバイヤー企業の動きについてこられないところがあるのですね。

技術の進歩についてこられないサプライヤーは、残念ながら消え行く運命しかありません。たとえ、技術的に優れていたとしても、昨日は栄華を誇った技術も、翌日には海外勢から超越されてすぐに陳腐化してしまうこともあります。一つの得意分野を持っていても、それに集中していたがために、時代の要請と合わなくなってしまうこともあるでしょう。

以前、サプライヤーへの手書き伝票をものすごく速く処理できると自慢していた年配社員がいましたが、今では電子調達の発達で手書き伝票は消えてしまいました。お元気ですか。個人であっても、スキルだと思っていたものが、新技術にすぐに代替されることもあるのですよね。それが会社であれば、存続の危機になるでしょう。

ただそうでなくとも、バイヤー企業やサプライヤーの会社方針が大きく方向転換し、これまでと全く違った分野に進出することも珍しくない時代です。日々つきあっている営業マンや営業部長からは方針転換の予定など聞いたことがなくとも、そのサプライヤーが外国企業から株式を半数取得され経営権を奪われることもあります。トップの交代ゆえに、「利益率が低く、将来性のないビジネスからは撤退することになりました」と突然サプライヤーから手のひらを返されたことは、私の経験でも一度や二度ではありません。

もちろん、既存のサプライヤーたちだけと一丸になって進歩を続けていくことにこしたことはないでしょう。しかし、これだけ時代の流れが急速な中で、サプライヤー全社と横並びで進むことは現実的に無理があります。私が「戦略的癒着」と呼ぶ関係先も、株式持合いにより完成された系列構造を持つバイヤー企業なら話は別でしょうが、通常の企業は永続的なものではありません。その関係先は、時代や状況によって移り変わることは避けられないでしょう。サプライヤーの入れ替えは、自由主義経済の必然なのです。

 

ただし、サプライヤーを入れ替えるということは、ネガティブな側面だけではありません。最初は、「必要に応じてやむなく」新規サプライヤーを探すことになるかもしれませんが、その過程を通じて良い効果を生むことができます。

外資系のサプライヤーと付き合うことになれば、これまでとは違ったタイプの「人」との出会いがあるでしょう。先端技術のサプライヤーと付き合うことになれば、触れたことのない「モノ」との出会いがあります。それに加えて、そのサプライヤーの「カルチャー」に触れることは、バイヤーにとって価値があるはずです。

あるとき、既存の電気部品サプライヤーが経営危機に陥り、代替サプライヤーを探すことになりました。固有名詞は書けませんが、その過程で付き合いを始めたあるトップ企業の営業部門には驚きました。なぜなら、営業マンがいなかったからです。すみません、言い過ぎました。営業マンは数名いたのですが、前線に出てくるのは全て営業「ウーマン」。しかも、その服装はかなり派手で、かつミニスカート(!)。違う企業のバイヤー仲間に聞いてみると、「この前、あそこの営業さんと飲みに行ってねえ。楽しかったなあ」と。どうやら、そこの好業績の秘密はそこにあるようでした。「おいおい、色仕掛けに騙されて調達先を決定するなよ」という当然のツッコミはあるでしょうが、私はそれを批判したいわけではありません。そういう営業活動のみで受注できているわけではないでしょうし、たとえそういう営業活動に応じて取引が開始されたとしても、それはそれで自由なので批判するに値しないからです。

逆に、手ごわいサプライヤーと出会った経験は私の糧となりました。最初は安い価格を提示してきたので取引が始まったのですが、徐々に仕様が固まり、もうサプライヤーを変更できない段階になると価格が高くなっていくのです。私が、「最初に出してきたのは『名刺コスト』のようなもので、結局はこちらからカネを奪い取ろうという魂胆ですか」と言ってやったところ、翌週に電話帳のような詳細見積りを提示してきました。「それぞれ、そちらからの細かな設計仕様の変更依頼があって価格が上がっている。おかしいと思われるのであれば、どこが不当なのか指摘してもらって結構です」と言うのですね。だから、それぞれの部品の材料・加工の明細を提出しますと。最終的な価格だけでやりとりをするのはある意味楽です。しかし、サプライヤーから「あなたはいくらにしろと言うが、その金額には理論的にできない。なんなら詳細を提出するから、どちらが正しいか勝負しましょう」と言われるとは思っていませんでした。私は、それまで終値だけを交渉するスタイルに慣れていましたので、ネジ一本から詳細を詰めていくやり方は非常に勉強になりました。

 

新規サプライヤーと触れ合うことで、バイヤーは新たな経験ができます。それを重ねることで新たな発想が芽生えるはずです。バイヤーの仕事は、どのくらいのサプライヤーを知っているか、どのくらい多くの分野を担当したか、という「範囲の経験」を問われます。新規サプライヤーと臆せずつきあっていくことで、既存のサプライヤーの良さを改めて理解することもでき、仕事の理解がより深まるはずです。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい