4-(2)-1 サプライヤーのコスト構造

・「高い」というときは何が高いのか

バイヤーになりたての頃のことです。何十回も競合を繰り返していると、なぜその結果が毎回異なるかが分かりませんでした。何も哲学的な議論をふっかけているわけではありません。あるときはA社が最安値で、あるときはB社が最安値。そうなる理由が分からなかったのです。「安いところは、どんなものでも安くなるのではないか」という単純な疑問でした。

結果がバラつくなんてこと当たり前だろう、と思われた方もおられるでしょう。確かにそうなのです。ビジネス環境も日々移り変わっているので、同じ結果が出るはずはありません。しかし、です。私は「こういうときはA社が最安値で、こういうときはB社が最安値になる」という理由をもっと知りたかった。単なる知的好奇心という側面もありますし、「なぜ今回はこのサプライヤーが最安値だったか」を説明できないとバイヤーとしてはマズい気がしていたからです。

そのときまで私は見積り書に最終価格だけを記載してもらっていました。見積り書に一言「1,000円」とだけ書いてある見積り書です。そこで色々考えたり学んだりしていくと、どんなに複雑に見える製品・部品でも、次の要素に分類できるのではないかということが分かりました。

  • 管理費(輸送費含む)
  • アッセンブリー領域
  • 購入品領域
  • 加工領域
  • 材料領域

それぞれ分けてみれば、様々なことが言えることも分かってきました。例えば、サプライヤーの作業者の労務費が高かったり、作業性の効率が悪かったりするとします。とすれば、単純な組立(アッセンブリー)で済むものであれば他社と比して優位性を保てるところも、複雑で手間のかかる組立が必要なものは劣位性を露呈してしまうのです。あるいは、サプライヤーの材料の購入単価が高かったり、ムダなスクラップばかり出したりしているとします。とすれば、少ない材料比率のものは良いでしょうが、たくさん材料を使うものであれば、競合で負けるしかないでしょう。あるいはサプライヤーの営業方針から、普段よりも意図的に管理費を増額し、事実上の「お断り見積り」を提出してくることだってあるかもしれません。

サプライヤーの価格を「高い」と言うとき、それぞれ「どこが高いか」によってだいぶ対応の中身が変わってくるのです。本来であれば、競合の結果で発注先サプライヤーを決めれば良いだけの話でしょう。しかし、特定領域は全てを競合だけで決定するわけではありません。戦略的癒着のサプライヤーであれば、継続的に優位性を向上してもらわねばならないのです。もし、材料領域に劣位が散見されれば、安い材料サプライヤーを紹介しても良い。アッセンブリー領域に問題があれば、バイヤー企業から工程改善の指導をして良い。ただし、それらは「どこが悪いか」ということが明らかになれば、の話なのです。

ここでバイヤーは次のことを確認します。

  • 管理費(輸送費含む):最適な管理費率(額)になっているか。同業他社比・類似品比で妥当なものか。不当に高い管理費率(額)を請求してきていないか。
  • アッセンブリー領域:最適な作業秒数・賃率になっているか。同業他社比で妥当か。類似品比で、作業秒数は縮まっているか(工程の合理化を図っているか)。
  • 購入品領域:バイヤー企業の調達価格レベルと比して高価ではないか。「言いなり」の価格で購入していないか。
  • 加工領域:マシンサイズは最適か。最適な使用秒数・賃率になっているか。
  • 材料領域:最適な購入単価となっているか。使用量は最適か(歩留まりは悪くないか)。不当な材料高騰を甘受していないか。

こういうことを一つ一つ確認することで、サプライヤーのコスト構造が徐々に分かってくるはずです。

 

さて、こういう話をすると「理想家」と「現実家」に分かれます。ある人は「バイヤーはサプライヤーに詳細見積りを提出させるべきだ」と言い、ある人は「サプライヤーにコストを分解させて提出させるなんて無理だよ」と言うはずです。前者の理想家の発言は、おそらく大企業出身の人のもので、おそらくサプライヤーの価格を細部まで検証しており、そのような詳細見積りを提出しないのであれば「取引しない」とサプライヤーに言ってしまえる立場にいたのでしょう。そして、後者の現実家の発言は、おそらく中小企業か調達・購買部門の弱い企業出身の人のもので、おそらくサプライヤーの価格の細部を問い合わせても「そんなに細部なんて出せませんよ」と言われていたはずです。

私は理想家ですが、現実家でもあります。見積りの詳細を入手しようと思っても、そう簡単に入手できないことだって経験として肌で知っています。そして、同時に最終価格だけを入手して、サプライヤーに何も言わずに満足しているバイヤーがたくさんいることも、です。見積り詳細を入手するためには、とりあえず「依頼してみる」ということからしか始まりません。コスト構造を分解するように依頼してみる。ダメなら、見積り依頼時に「発注先決定条件として、見積り詳細を提示いただくこと」としておく。上司がサプライヤーのトップと面談するときに申し入れしてもらう……等々、考えてみれば手段はいくらでもあります。「私たちは、そちらのコスト構造を知りたい」ということ、そして「そのコスト優位性をもっと伸ばし、劣位性をつぶしこみたいと願っている」ということを訴えるのです。

言ってみないことは伝わることがないように、試してみないことは実現することはありません。ぜひ、サプライヤーのコスト構造を理解できるように努め、どの領域が良さ・悪さを持っているかという分析を実施しましょう。

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