3-(2)-2 調達・購買のアプローチ方向
調達・購買力とは、実は結果系アプローチだけでもそれなりに成果をあげることができる仕事です。恫喝だけでサプライヤーと交渉している人が、とはいえそれなりの成果をあげている例を思い浮かべることができるでしょう。机を叩いたり、恫喝にも似た交渉をしたりして、サプライヤーの価格を下げさせようとする人は、どこの世界にもたくさんいます。私の知っているすごい例は、常に営業マンに社印を持たせることを強要していたバイヤーで、ことあるごとに営業マンを会議室に監禁し「価格を下げるまで帰るな。価格を下げる気になったら、新しい見積りをこの場で作成しろ」と繰り返していたことです。いつしか、当局に捕まることになるでしょう。お大事に。とはいえ、このやり方でも成果をあげるだけなら良いかもしれません。
しかし、それでもなお調達・購買力のある企業とは、原因系アプローチに愚直なほどの努力をしているところです。もちろん、サプライヤーからの提示価格が高ければ、異常なほどの熱意でそれを下げさせます。悪い結果に対しても、しつこく諦めずに結果系アプローチで、なんとかサプライヤーを変えさせようとするのです。しかし、同時に必ず原因系のアプローチを忘れることはありません。
バイヤーは想像されているよりもずっと忙しい仕事です。入社したときは、誰だって先輩が忙しそうにしているのを見て、圧倒された経験を持っているでしょう。そのうち、多くのバイヤーが、特に真面目な人であればなおさら、深夜までの仕事に及び、目の前の問題に対して「忙しく働くこと」が自分の存在意義であるかのように思ってしまうのです。
若いバイヤーは意識していないと、結果系のアプローチばかりをとりがちになります。トラブル対応で動いているうちは、「仕事をしている」という実感もあり、かつトラブルをあざやかに処理したバイヤーが尊敬さえされていますから、注意が必要です。
少し考えれば、「トラブルを解決したバイヤー」よりも「そもそもトラブルを起こしていないバイヤー」の方が優秀なのは自明でしょう。ひどい現状をなんとかやり過ごしていくことも経験としては重要ですが、その現状を少しでも変えようとしなければ同じことの繰り返しになるだけです。