3-(2)-3 調達・購買のアプローチ方向
・それは本当に真の原因なのか?
原因系のアプローチを行なうにあたって、難しいことは、自分自身では原因をつぶしこんでいるつもりでも、実は表面上の対処しかできていない可能性が高いことです。
「あるサプライヤーのコストが高い。だから根本原因を解消しよう」と思ったとします。まず、対面する営業マンの質が悪いから、見積りの精度が悪いのかもしれません。社内に真剣にかけあってくれないから、高い見積りを提出してくるのかもしれません。では、真剣に検討してくれたとしたら? それでも実力値として数%しか下がらないかもしれません。
では、一体何が問題なのか? そこからバイヤーの深い思考の旅が始まります。同じような性質・構造のものを作っていても、なぜあるサプライヤーのコストは高いのか。それは管理費(サプライヤーの「儲け」の部分)が他社に比べて過剰ではないか。違う。他社よりも低いレベルだ。それでは、なぜ製造原価が高いのか。それは、過剰な設備投資により、通常より高い設備償却費用が加算されているのではないか。違う。では、労務費が過剰なのか。それも違う。正社員率を抑えることによって、ランニングコストは他社並みになっている。
それでは、工程内不良率が他社よりも高いのか。どうやら、そのようだ。なぜ工程内不良率が高いのか。定着率か。違う。特定作業工程で不良が多発していないか。それも違う。どうやらまんべんなく不良が発生しているようだ。そういうことが分かってくるでしょう。ここでバイヤーは現場を繰り返し見に行くことになります。
バイヤーに必要なことは、原因を探すしつこさと、自らの仮説を立て現場と現実の中でそれらを一つ一つ反証していく愚直さです。サプライヤーの現場に行けば、多くのことが見えてきます。働く人の表情の変化を感じ、お決まりの工場視察コースを外れたところで工具の散乱を見れば、建前の会社説明では分からない現状を知ることができ、喫煙所で作業者と会話をしてみれば、実態がおぼろげながらつかめてきます。現場のマネージャーが作業者たちとコミュニケーションしていなかったり、作業標準書はあるものの、それを都度確認すべき外国人作業者が読めない「日本語」で書かれていたり。5Sを徹底しようとしないばかりに汚い工程の中で作業者たちがやる気を喪失していることもあります。
何の手がかりもない白紙の状態から、現場の中で一人考え、真の原因という答えを模索する試み。これが必要なのです。皮相的なことで終わらせるのではなく、自分の腑に落ちるまで原因を探し続けましょう。現場の問題のことを書いてきましたが、これは他の問題であっても同じことです。現場とは、ものを作るところ、という意味だけではありません。人が動いているところは、どこでも現場であり、そこには体で感じ考えないと分からないことにあふれています。
もちろん、結果系アプローチと比べてすぐに違いが出てこないかもしれません。でも、長期的に見れば、原因をつぶしこんでいる場合と、場当たり的に対応している場合とでは、おのずと結果が変わってきます。
結果系アプローチで目の前の問題解決だけに注力せずに、より良い将来を創造するためにも、真の原因を探す旅に出てみませんか。
<雑感>
口臭、というものは存在しませんでした。どういう意味でしょうか。それは、口臭などというものを気にする人はいなかったということです。しかし、あるとき「口臭を消す医薬品」なるものが発売されました。すると以降、人々は口の臭いを気にするようになったようです。つまり、口臭というものは、もともと存在したのではなく、創造されたのです。
問題と課題、結果系アプローチと原因系アプローチ、という分類も言葉に表現するから意識するようになります。これまで名づけられていなかったことに、あえて名づけるだけで、思考パターン自体が変わっていくというのは、考えればすごいことです。
慣れてしまえば、結果系アプローチだけをとってきたバイヤーと、原因系アプローチも押さえているバイヤーとの区別もつくようになります。自分のやっていること、話していることが、結果系アプローチばかりであれば、自覚できるようになるはずです。また、何かのプロジェクトを担当するときも、正しい方針を導くことができるようになるでしょう。
「はじめに言葉あり」とは良く言ったものですね。