6章3-7<セクション2~CSR調達の実践>
5.CSR調達監査の実施
次にサプライヤ実態の監査を実施します。
ところで、この監査について分類すると、三つの型があります。
現在おこなわれているCSR調達監査は、次の三つに分類されます。
①第1者監査
企業内部での監査が該当します。内部監査によって自社以外からの監査に備えたり、自己宣言の根拠にしたりします。第1者監査のメリットは、監査する側もされる側も同じ価値観にたって、同じ言葉を使っている環境の有効活用です。実際の業務や、直面している課題にも双方が精通しているので、監査作業自体は円滑に進むでしょう。ただし、ありがちな問題は二つあります。
一つめは、上位者からの圧力です。なにか問題が見つかっても、新たな行動による手間やコストを監査側が危惧し、指摘をためらう状況です。二つめは、監査する側、される側双方の「認識の甘さ」によって、問題があっても指摘がおこなわれないケースです。
内部監査は、CSR調達でなくISOや他の規格の認証を取得していればご経験をお持ちの方も多いでしょう。多くの企業ですでに取得実績のあるISO9000シリーズの場合は、規格内容の理解が全社員に進んでいます。したがって内部監査でも社員の持つ知識量は多く、かつ必要性を社員の多くが理解しているため、こういった圧力は比較的発生しづらい状況です。
しかしCSR調達では、そもそもその定義が曖昧になりがちです。内部監査は、バイヤー企業がサプライヤを監査するためにも必要なプロセスです。取り組みの当初は、問題点が多くてあたりまえだと諦観し、必要性に関する社内啓蒙活動もおこないます。
②第2者監査
これが中心となるサプライヤ監査に該当します。この監査の結果によって、継続的な購入の可否を決定します。
第1者監査と同じく、バイヤー企業はあるていど、サプライヤの実務内容や抱えている課題を理解しています。また同業他社との比較も可能です。CSR調達は他のCSR実現の取り組みと同じように、他社の成功事例を模倣して自社の活動をおこなうケースがあります。
この場合、バイヤー企業が媒体となって、他社の成功事例に関する情報提供も可能です。理想的な第2者監査とは、バイヤー企業とサプライヤの双方が自発的かつ積極的に監査対応をおこなって、改善活動を推進します。
いっぽうで、第1者監査と同じように、ありがちな問題が二つあります。一つめは第1者監査と同じく「認識の甘さ」によって起こります。CSR調達では、現時点でグローバル統一された規格が存在しません。現在は業界で統一した規格化の途上です。したがって、正しい認識レベルの確認が大きな課題となります。
前述では「継続的な購入の可否を決定します」と書きました。しかし実務上は、CSR調達でひっかかったからといって、そのサプライヤとの取引停止を即座に決定できる場合はきわめてすくないはずです。よって、CSR“監査”といいながらも、その目的は両社によるCSR”改善”になければなりません。
監査は正しい姿へ自社を修正・改善していくための取り組みです。監査の先にあるゴールを共有して、認識の甘さで生じる問題を回避します。
そして二つめは、指摘内容の是正にともなって発生するコストの問題です。人権に配慮した労働条件の改善にコストが発生するケースは容易に想定できます。この問題は、かつてISO9000シリーズでも発生しました。
最低限のコストへの反映はやむを得ません。しかし、なにもかもコストで解決するのでなく、企業の創意工夫と、バイヤー企業とサプライヤの協業によって乗り越えます。いや、“乗り越えるしかありません”が近いでしょう。CSRはほんらい崇高な目的のために、いかなる企業ともやらねばなりません。
なんらかの変更にすべて費用を請求してくるサプライヤもいるものの、きっとバイヤー企業側は顧客に費用負担を依頼せず当然のこととして対応しているはずです。これはサプライヤいじめではなく、また発注側の優越的地位を濫用しているわけでもなく、コストを抑えていかにこれからの社会に対峙していくかを共同で検討し、解決策を見出す関係こそが、CSR調達実現の近道でもあるのです。
③第3者監査
これは、独立したまさに第三者がおこなう監査です。独立監査機関は、日本でも外資系の監査会社がサービスを提供していますし、NGOがこういった監査実行活動をみずからの資金源にしているケースもあります。
ある監査会社の担当者に聞いたところでは、日本企業が国内で第3者監査を受けている事例はほぼないそうです。第3者監査の結果を自社のホームページで公開しているケースも、一部のアパレルや流通の大手企業に限定されます。
この監査会社を使うメリットとしては、専門家へ委託するため、客観性が担保されます。加えてCSRに関する専門家に依頼するので、専門家の持つ知見を活用できるメリットがあります。ただしいっぽうでは、監査を受ける企業の実態を理解するのに相当な時間が必要であるようです。またノウハウを有する監査員の絶対数が少ない問題もあります。