6章1<ケーススタディ⑥~社内の調達倫理がめちゃくちゃ。インテリも皆無>
私は中堅の産業機械メーカーで部品購入を担当している。「調達の仕事はコストダウンだ」そんな社内の声とは裏腹に、最近では納期フォローばかりおこなっている。もちろん納期フォローも重要な仕事ではある……だろう……。
部品の納期が遅れるのでなく、顧客からの短納期要求が強すぎて、調達リードタイムが確保できないのが実情だ。メールや電話のみならず、サプライヤへ直接納期短縮を申し入れるために訪問する機会も増えた。しかも最後は決まっている。「なんとかしてくれ」とサプライヤに言い続けるのだ。
そんな中で、全社に関連したCSR・コンプライアンスの研修が開催された。不祥事を起こした他社のトップがマスコミのカメラの前で頭をふかぶかと下げる光景を見ると、CSR・コンプライアンスの重要性を肌身で感じる。しかし、調達に関するコンプライアンス研修は実施されない。
「そんなものサプライヤにやらせりゃいいんだよ」
あるとき、コストダウンの施策について、調達部長に思い切って相談しただ、サプライヤを動かすのが調達担当者の仕事だと言われた。そこにはCSR遵守の姿勢は感じられなかった。じゃぁ具体的にどんな方法でサプライヤを動かせるのかといえば「担当者同士の人間関係だ、俺の頃は……」と、得意の昔話が始まった。
たしかに今の部長は功績が大きいと、社内外で評判だ。でも、部長が担当者だった1980年代と今とでは、調達環境が大きく違っている。もちろんそのなかでも、サプライヤの担当者との人間関係が大事なのはわかっている。
しかし、サプライヤにしてみれば理不尽なリードタイム設定による納期繰り上げの話ばかりだ。良い人間関係を作るどころか「何度同じ話を繰り返すんですか」なんて責められているのが現実だ。とてもコストダウンの話を切り出せる雰囲気ではない。それを、やはり単に「やってくれ」と繰り返すだけが仕事なのか。
CSR・コンプライアンスの研修の後、席に戻ると営業部門から2本メールがきていた。最初のメールは、<重要顧客からの「調達リスク調査」>と題したメール。自社を起点にして、最低3次サプライヤ、できれば5次サプライヤまでを調査して、リスクアセスメントの結果を報告しなければならない。これはもちろんコンプライアンス違反事例がないかも含まれるようだ。
もうひとつは、海外調達推進の話だ。各部材について、将来の調達戦略について語らねばならないらしい。部長は精神論を語りながらも、タテマエでは最適地調達を推進せねばならないというのか。これからはもちろん、世界の動向を気にしながら、最適地調達を志向せねばならない。しかし、そもそも世界の動向がどうなっているのか、調べ方もしらないはずだ。物価水準がどうなっているとか……みなは知らずにただただ海外サプライヤとの相見積りだけで方針を決めている。誰にも相談できない。どうすればいいのか。