5章1<ケーススタディ⑤~グローバル展開と国内の空洞化>

私は自動車メーカーに勤務し、本社の調達企画部門に属している。自動車業界ではずっとグローバル展開を推進してきた。それなりに成功していると自負してもよいだろう。しかしこのところジレンマがある。

というのも、かつては「全世界一枚図面」を狙っていた。これは、世界各拠点どこにいっても同じ図面での生産を意味していた。つまりどの国も日本なみの生産技術を志向していた。しかしやはり国によって得手不得手があり苦戦していた。なによりも苦戦していたのは、自社工場よりもサプライヤたちだ。日本なみの品質や技術レベルは正直にいって、自動車産業でも難しい。

つぎに「世界同時開発」だ。これは、本社だけに開発機能をもたせるのではなく、世界中に開発機能をもたせ、現地ニーズを吸い上げて開発に活かす仕組みだ。直感的にも、日本にいて開発するよりも効率的に思える。

しかし、やはり本社でまとめて開発したほうが試験効率などもあがるし、なにより部品の統一などが進むようだ。さらに重要なのは、世界各地で開発・設計部門と調達・購買部門が製品をつくりこむよりも、本社でやったほうがはるかに良いものができる。どうしても、それぞれの現地でやらせると、局地的な発想にしかならないのだ。

これはこれまでのやり方が間違っているというよりも、時代によっても正解が変わるのかもしれない。

まさに現状だけを見れば、開発・設計部門のリサーチ担当者だけを現地において、そこから情報を発信させ、日本で集中したほうがよいのかもしれない。

ただ、そうなっても、現地で生産する方針に変わりはない。そのときに、われわれ国内の調達・購買部門は何をすることになるのだろうか。調達しないが、仕様には口を出す部門になるのか。そこがはっきりしない。

さらにやっかいなのが、国内の空洞化だ。かつて円高が進んだときに「国内が空洞化すればするほど、われわれが仕事をしているってことだ」と冗談をいった調達本部長がいた。しかし、そのときは冗談でも、いまでは通じない。円安や円高にかかわらず、空洞化はサプライヤ経営に深刻なダメージを与えているからだ。

円安になっても、いったん海外に流出した生産は国内に戻りそうもない。売上がどんどん下がっていっている。海外進出せよ、と進めるのはたやすいものの、実際に中小企業のリソースでは海外進出は難しい。

実際、何人かのサプライヤから「ティア2サプライヤがまた倒産してしまいました」と聞いた。それで大慌てで代替サプライヤを探したそうだ。いまはチラホラ見られる事象ではあるものの、そろそろ本格的に「大倒産時代」を迎えるのか。

グローバル展開を考えるにあたって、負の側面である、国内サプライヤ対応も考えねばならないだろう。国内サプライヤの倒産予防策、あるいは事前察知の指標はないものか。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい