調達原論3【32回目一サプライヤー支援とサプライヤー改善】

32「サプライヤー支援とサプライヤー改善」

バイヤーは、サプライヤーとの繁栄を創り出す 

 

その都度ベストなサプライヤーを選択し、売買を重ねる。毎回、サプライヤー同士の価格勝負を繰り返し、最安値のところから買う。品質のトラブルがあれば、次回以降はそのサプライヤーとお別れして、おしまい。その方法論を繰り返すだけであれば、サプライヤー支援・改善という思考は出てきません。改善すべきはサプライヤー自身であり、こちらが介在する理由などないからです。

しかし、一つの仮定を設けてみます。各サプライヤーについて、こちらが加担することによって毎日毎年レベルアップできたら。レベルアップしたサプライヤー同士が競ってくれることで、より良い結果が享受できるのではないか。そんな仮定です。

日本の製造業では、サプライヤーを他人とみなすのではなく、自社工程の延長とみなすことによって、全体的な改善を図ってきました。個別の最適化により繁栄を目指す原理的な資本主義に対して、日本企業流資本主義は、サプライヤーを含めた大きな事業体の進歩を目指してきた、ということもできます。

サプライヤー支援・改善というと難しいイメージがあるかもしれません。しかし、これは高尚なものではなく、QCDDにおける期待と実績を客観的に伝えることと、バイヤー企業だから知りうるサプライヤー間の相対情報を提示してあげることなのです。

通知表というものが小学生の来年からの学習指針になるように、毎期サプライヤーに相対評価をフィードバックすることで、改善すべき点が明らかになります。ただ、こちらが先生で相手が生徒という関係ではないので、真摯にかつ客観的に伝えるべきです。

なお、改善してほしいところは書類には残さないまでも、できるだけ仮説とともに具体的に伝えましょう。たとえば、サプライヤーの売価に占有する材料費率が高いとします。それであれば、調達ルートの再点検を迫る。また加工領域に問題がありそうであれば、「なんとなく価格が高い」ではなく、「××という成形費が、競合他社平均に比して○○円高い。これは、設備の調達費用が高く減価償却費が上昇しているのに加え、競合他社が作業者あたり3台をオペレートしているのに、御社は1台のため労務費分が加算しているためではないか」と、それが仮説であっても相手に具体論を提示すべきです。その仮説の真偽を確かめる過程において、真の問題が明らかになります。

また、将来にわたって取引を継続すべきサプライヤーであれば、そこが経営危機に陥っている場合に支援をすることも大切です。材料費が高止まりしているのであれば、バイヤー企業が調達を支援する、あるいは支給に切り替える。あるいは、損益分岐点が高く売上難の局面を乗り越えることができないのであれば、仕事量を確保し、そのあいだに固定費を削減し、売上減耐性を高めさせる。

サプライヤー支援には、広い経営・財務・会計などの知恵が要求されるでしょう。だから、バイヤーは経験だけではなく、知識とノウハウと、それを得るために情熱も必要なのです。

バイヤーは「モノを買う」という立場だけではなく、その立場ゆえに得ることができる情報を活用し、ときにサプライヤーのコンサルタント役になることも忘れてはいけません。

そして、その知識と情熱は、両社の繁栄のためにこそ使われるべきだ、ということも。

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