調達原論3【30回目一支払い条件の意味】

30「支払い条件の意味」

価格と支払い条件に隠された暗号を解け 

 

受領・検収が終了すれば、あとは契約書に基づいた対価の支払いが実施されます。下請法対象取引先は、受領から起算して60日以内に支払うことが定められており、その他の取引先についても、月末締め、翌月支払い・手形振り出しが一般的です。一般的に取り決められるのは、たとえば4月1日から4月末日までに検収したものは4月度検収実績品として、翌5月20日に2~3ヶ月の手形を振り出すものです(あるいは現金払い)。2~3ヶ月手形とは、その受取人に対して、その一定後に一定の金額を支払うことを約束する有価証券のことを指します。

例をあげれば、100万円分の製品を納入し、その対価分の手形を受領したサプライヤーはそこから3ヵ月後に100万円を受け取ることができます。また、手形と現金支払いだけではなく、特定の期日にサプライヤーの銀行口座に直接支払う場合や、第三者機関に信託することによる一括支払い信託・ファクタリング等の手法を選択する場合もみられるようになってきました。

当然、手形は短ければ短いほど早く現金化ができ、手形よりも現金支払いのほうがサプライヤーの経営としては「ありがたい」ということになります。目の前の運転資金に困っているサプライヤーは多いものです。この場合の、「ありがたい」とはどの程度を指すのでしょうか。

よく調達関係の書籍等を読んでいると、「支払い条件の変更も交渉のネタとして、コスト低減を図りましょう」という表現が見られます。部品納入の対価を支払う際に、手形期日を短くする、あるいは即現金化することによってサプライヤーから販売価格の見直しをお願いするというものです。しかし、私はこのことに二つの疑問を持ってきました。一つ目、バイヤーが、企業全体の支払い手法を変更することは(ある一定以上の企業の場合)かなり難しく、実用的ではないこと。二つ目、早期支払いによるコスト低減は、理論上コスト低減額が0になるレベルにまで収束していくからです。それは、「見た目のコスト低減」はできたとしても、「実質的なコスト低減」には結びつかないということです。

支払いの早期化により、1000円が991円になったとします(やや不思議な数字仮定ですが、わかりやすくするためです)。見た目は9円のコスト低減効果がありますが、実質コスト低減を見るためには、利子率を考慮した計算が必要です。5%の利子率から一ヶ月あたりの利子率を導き、そこから実質のコストを計算してみれば、サプライヤーが提示してきた991円とほぼ同額になるのがわかります。

逆に言えば、その分の金利を検討し値引き額を提示するのです。ですから、相手が相当目の前のキャッシュに困っているという特殊事情ではない限り、理論的にコスト低減額がなくなる数値になります。価格とは、多くの思惑が詰まった結晶なのです。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい