調達原論3【26回目一毎期のコスト低減】
26「毎期のコスト低減」
コストを下げたのはあなた? それとも市場?
日本の製造業に属するバイヤーであれば、新規製品のコスト低減だけではなく、特に継続調達品のコスト低減に注力する必要があります。これは、継続して調達しているサプライヤーからの売上割引としての側面を持ち、バイヤー企業においては自社製品の市場価格下落に追従するための原価改善活動の一環としてとらえることが可能です。
と言いましたが、これは多くのバイヤーにとって「イヤな仕事」とされるのが常でしょう。多くの場合は、売買が成立した後ではコストは下がりにくく、サプライヤーにもそのインセンティブが働きません。だからこの交渉の時期になると、多くのバイヤーは陰鬱な気持ちになるのです。
さて、とはいえ仕事ですから、泣き言はこの辺にして、毎期コストが下がるべき理由について考えてみましょう。
- 減価償却・・・サプライヤーが導入した設備は毎年減価償却により価値が減じていく。加工費は減価償却を積み上げるため、理論上毎年コストは下がる
- 生産の熟練・・・生産開始時と比して、翌年以降は作業者の熟練によって作業時間の短縮が図られる
- 材料の改善・・・同じく作業現場の効率化により、投入される材料量が、生産開始時と比して、翌年以降は低減される
- 購入品のコスト低減・・・サプライヤーが外部から調達している材について、市況によりコストが低減する
ここで考えておくべきは、バイヤー企業はサプライヤーの自助努力分を掬うのだ、ということです。2にしても3にしても、サプライヤーが改善により成し遂げている内容。それを奪うのだから、バイヤーとは難儀な商売です。ここにバイヤーの難しさもあります。
単純にゴリ押しの交渉は別としても、あくまで建前としての定石は次の通りです。
- 決算書等の財務データを基にしたコスト低減の引き出し
- 将来の発注量増加を前提としたコスト低減の引き出し
- 現場検証によるコスト低減の引き出し
毎期のコスト低減を達成するには唯一の解がないために、あえて理想論を語っておきます。
バイヤーが毎期のコスト低減を成し遂げるために必要なのは、「能動性」と「理論」と「真摯さ」と、何よりも「しつこさ」ではないかと思うのです。「能動性」を持ち攻める姿勢を見せないとサプライヤーはついてこない。ただし自信だけの人間は長続きせず「理論」が必要だ。ただ、堅苦しさは「真摯さ」に裏付けられ、それを貫徹する「しつこさ」が求められる――。
こう書くと、まるで夢想家のようです。しかし、多くを扇動し動員し、そして新たな地平線を目指した革命家たちは、すべて一種の夢想癖にとりつかれていました。バイヤーは革命家ではありません。ただ、と思うのです。サプライヤーをまとめ、コストを籠絡し事業を一方向に導くのは、ある種の狂気ではないか、と。