調達原論3【10回目一社内戦略合意と将来戦略の構築】

10「社内戦略合意と将来戦略の構築」

社内に浸透しない戦略は、ゴミと等価である 

 

あるとき、「優秀なビジネスマンの共通習性は何か?」という私の問いが氷解しました。それは簡単なことです。「目標を立てている」。

ほとんどの人は、年間の、あるいは5年先の、大袈裟にいえば人生の、目標を立てていません。これでは、どうやって大きなことを成し遂げようというのでしょうか。

企業体に拡大して考えてみます。各部門がばらばらの目標を掲げている企業と、全部門が合致した目標を掲げている企業。どちらが業績を伸ばすかは自明でしょう。しかし、一定以上の大企業ともなると、大企業病というやっかいなものに罹患してしまいがちです。

バイヤーとは、調達・購買部門とは、営業や設計や生産の部門をつなぐ媒介者にほかなりません。媒介者=メディアとは、マーシャル・マクルーハンの言葉を借りれば、「メッセージ」のことです。それはつまり、調達・購買部門とは、主張やアジテーションを発することによって、一つの合意形成を図り、企業を一方向に導く高貴な生のあり方のことです。

これまで、「情報購買」ということが言われてきました。市場の情報を早く勝ち取り、それを日々の調達業務に活かしていくこと。これがQCDに優れた調達の要件だというのです。

しかし、それだけでは足りません。それは、情報のインプットのみにフォーカスしているという点で、片手落ちを免れないのです。これから調達・購買部門に求められるのは、市場情報の敏速な獲得とともに、社内情報を吸い上げるというヒアリング能力と、誤った方向性を峻拒し、先端の知識を社内に移植することで驚きを与え啓蒙を促すというトリック・スター的な働きです。

難しく考えることはありません。

バイヤーは機敏に社内を歩き回れば良いのです。設計部門や生産部門を暇があれば歩き回り、市場の動向と社内の現状の懸隔を洗い出し、「何か役立てることない?」と尋ね回ること。フットワークの軽さこそ、市場に柔軟に立ち向かうべき21世紀型企業に属す社員の条件にほかなりません。

したたかでしなやかな「最強の御用聞き」になることです。設計部門が複数にわたっていれば、定期的に調達戦略会議を開きましょう。生産部門も交えます。調達部門が考えていること、コスト低減の実例や、将来の戦略について共有します。いまでは、どの設計部門も「コスト低減のネタ」に困っているでしょうから、喜んで参加してくれるはずです。ちろん、雑談でもいい。その雑談の中から、明日へとつながるネタが出来上がりますし、何よりもモノづくりの先端にいる設計者と仲良くなることは有益でしょう。

そして重要なことは、調達戦略の社内合意にはバイヤー個人の「顔が売れていること」なのです。誰だって知らない人から押し付けられた調達戦略なんて合意するはずはありません。

社内浸透の戦略とは、いつだって属人的なものなのです。

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