調達原論3【9回目一サプライヤー変更の方法】
9「サプライヤー変更の方法」
直感的な恋人選びと、理論的なサプライヤー選び
お別れ、という言葉は恋愛だけでなく、企業間取引においてもときに禍根を残すものです。
サプライヤー変更を決意し、それを実行に移す際には、次の3点が明確になっていることが求められます。
- サプライヤー変更が将来の調達戦略に合致していること
- サプライヤー変更により享受できる利益が、変更によるデメリットを超過していること
- サプライヤー変更の理由について、外れる側に、納得性を持つ理由を説明できること
(1).は当然であり説明の重複になるため割愛します。問題となるのは、(2).と(3).です。まず、(2).については、長期的なメリットと、短期的なメリットはときに相反するということが挙げられます。新たなサプライヤーを参入させることが、短期的には育成や監査などのコストを生じさせ、なかなか新規参入の効果が見えにくいものです。また、(3).は、全員が完全納得する理由など存在しないため、事態を悪化させます。新規顧客の獲得コストは、既存取引継続の倍以上と言いますから、切られる側のサプライヤーとしては、どんなに立派な理由であってもなかなか賛同しにくいものです。
また、設計部門は短期的な利益を追求する場合が多いので、鳥瞰的な視点に立ってサプライヤーの変更を決定できないことがあります。ゆえに、調達・購買部門が俯瞰的に判断しサプライヤーのIN/OUTを決定せねばなりません。
これは、戦略の立て方にも影響しますが、サプライヤーを評価する際には、NPV(現在価値)という考え方を利用することが有効です。NPVとは、投資評価をする際に、将来にわたって、その投資案件がどれくらいのキャッシュを生み出すかを計算・比較するためのものです。これを使うとはすなわち、そのサプライヤーを参入させるために支払う犠牲(コスト)がどれだけ将来にわたって利益を生み出すかを評価することにほかなりません。
ここでQCDの評価であれ、NPVの評価であれ、注意すべきは「どこにでも恣意性が介入しうる」と理解することです。QCD評価が絶対的な結果だと思うのは早計でしょう。なぜなら、どのような評価関数を使用するか、というその行為そのものが特定のサプライヤーを有利にさせてしまう危険性を孕んだものだからです。
逆にいえば、絶対評価の顔を持ちながらサプライヤー変更資料は、そのバイヤーの意思と情熱を包含させることができる、とみなすこともできます。サプライヤー変更とは、その企業の意思決定機関を籠絡することができる、という意味も持ちうることなのです。