調達原論3【8回目一サプライヤー調査の方法】
8「サプライヤー調査の方法」
サプライヤーを探して、世界を探しに行こう
日本のバイヤーに足りないものは何でしょうか? 情熱、英語力、コミュニケーション力……。それらはある意味あたっているものの、最も不足しているのは調査能力にほかなりません。先哲たちは誰だって「思い込みではなく、事実をベースに物事にあたれ」といいます。しかし、なかなか実行できていません。もちろん、誰にだって多少の先入観はあります。ただ、日頃付き合っているサプライヤーしか知らないのに、自分が調達している製品が「最安価で」「最適なもの」と断言するのは早計だと思うのです。
優れたバイヤーたちは、常に謙虚にふるまいます。それは、自分に自信がないからでは決してなく、自分が現在知っていることなど、世の中のほんの一部であるという事実を前に畏怖にも似た感情を常に抱いてしまうからです。
ある製品は、翌日には陳腐化する社会に私たちはいます。ある瞬間に最適だった製品も、次の瞬間にはライバル企業が抜き去ってしまうかもしれません。その意味で、バイヤーは製品を研究し、サプライヤーを探し歩き、常に安心できない心境におのれを追い込むことこそ必要なのです。
さて、心構えはこの辺にして、具体的にどうやってサプライヤーを調査するのか。それは、さまざまな方法があるものの、三つに分けることができます。
- 競合他社の類似製品に使用されているものの製造者(サプライヤー)を調べる
- 既存のサプライヤーに、競合他社やライバル企業を訊く
- 展示会や製品プレゼンテーションに参加する、インターネットを活用する
それぞれ順に説明していきましょう。
(1.は、業界見取り図を作成するためにも必要な作業です。難しいことではありません。簡単な絵とともに、競合他社が買っているサプライヤーの名前を記載していくだけです。もし、そのなかに自社でも付き合いのあるサプライヤーがいれば、そこから思索がはじまります。「こんな高いサプライヤーをなぜ使うのか?」という疑問が沸けば、それは「自分は市価と比して高めに買っているのではないか」という仮説につながるかもしれません。あるいは、「このサプライヤーが得意とする低仕様領域をうまく使用しているのではないか」と競合他社の優位性に思いを馳せることになるかもしれません。
これらを集めた何十万円もするサプライヤーマップを買っても良いのですが、自分のためにも自作したほうがより良いでしょう。
次の(2.は、盲点ともいえる方法です。マーケティング用語である3C(Competitor、Customer、Cost)が示すとおり、あなたの目の前にいるサプライヤーの営業マンは、競合他社についての情報を持っていることが多いでしょう。それを訊き出し、そのライバル企業について調べてみましょう。価格・技術・品質に関して、既存のサプライヤーだけでは見えてこない、そのサプライヤー相対的な位置づけも理解できるはずです。
最後の(3.は、良く使われている方法です。不景気の拡大とともになかなか大規模な展示会は開催されなくなってきたとはいえ、まだまだ未知のサプライヤーと「遭遇」できるチャンスはあります。
ところで、新規サプライヤーを調査する、というと詳細項目を盛り込んだ「調査リスト」を薦めてくる人がいます。私は詳細なリストを否定するものではありませんが、それはどうも現実的なものではないように感じられます。多くの調達・購買部門で、めちゃくちゃ細かなサプライヤー調査リストを作成しては、その完成を頓挫させてきました。
・サプライヤー調査そのものが自己目的化する
・結局使わない(その後誰も活用しない)情報ばかりで、役に立たない
ということが挙げられます。バイヤーの目的は、自社に最適な製品を調達する、ということにあるのですから、あまり目的と手段を履き違えないようにしたいものです。できるだけ簡潔に、そして上司・同僚に重要なポイントを伝えることができるように、最低限の情報を盛り込み、新たな「サプライヤー調査リスト」を作成しましょう。
サプライヤーを知るとは、市場を知ること。自分が調達しているサプライヤーだけではなく、広い世界に存在するサプライヤーを知ることとは、自分を知ることなのです。