5章-5 モチベーションゼロの仕事術
そこで私は交渉上手といわれていたひとたちの交渉を20人ぶんほど録音した。ICレコーダーのボタンをこっそりと押して、あとでそれを分析したのだ。分析してはじめてわかったことがあった。優秀な交渉者は意外におしゃべりが多く、「相手に8割くらい話してもらって、こちらは2割くらい話すのが良い」鉄則を守っていなかった。おそらくこれはみなさんの感覚とも合致するのではないか。
ほんとうのポイントは「質問回数」だった。凡庸な交渉者は、30分で5回ほどの質問しかできない。ただ、優秀な交渉者であれば30分で10回ほどの質問をくりだせる。それは「~ということは、~いうこともいえますよね」とか「もし~だったら、~なりますか」といったような、一見すると質問に見えないときもある。ただ、そうすることによって、意識的にもあるいは無意識的にも、相手から情報を吸い出していた。
考えてみれば当然で、凡庸な交渉者が2回かかるところを1回の交渉で決めてしまう。それは優秀なはずだ。そこから、私は会話のなかで30分に10回ほどの質問をすることに決めた。これであれば、難しい交渉ルールなど覚える必要はない。本書は交渉術をテーマにするものではないため、詳細は別に譲る。ただ、このように、「売れる営業マンが実践しているポイント」など、さまざまなことを分析していった。
製造業の現場には作業標準書がある。作業標準書とは、ものづくりの手順を示したもので、そのとおりにやれば品質・時間・価格を順守することができる。つまり、私は自分なりの作業標準書を作成したのだ。
そのときは漠然だったけれど、自分なりの教科書や作業標準書を作れば、やる気やモチベーションに無関係に仕事をこなすことができると知った。私は、工場の作業員とおなじく、機械になったのである。おそらくこの言葉に嫌悪感を抱くひとは、ホワイトカラーよりブルーカラーのほうが上位だと差別的思考を持つひとだろう(ちなみに私は差別が必ずしも悪だとは思わない)。
そのような分析を重ねていくうちに本を出すことになった。私は文章術についてもさまざまな分析を重ねた。そのひとつは、「読みやすい」文章についての工夫だ。私が他人の文章を読んでいると、「読みやすい」ものと「読みにくい」ものにわかれた。その理由はなんだろう。私は、漢字比率ではないかと思った。そこでベストセラーとなったものが、多くのひとから「読みやすい」と感想を抱かれたと仮定して、多くのベストセラーの漢字比率を調べてみた。すると、「読みやすい」とされているものは、全文字数のうち漢字の比率を30%以下に抑えていることがわかった。ちなみに、本書の漢字比率は
1章:14881文字中、漢字は4239文字で28%
2章:13051文字中、漢字は3370文字で26%
3章:8367文字中、漢字は2365文字で28%
4章:17850文字中、漢字は4303文字で24%
となっており、自分の作業標準書を守っている。これはもちろん、仮説だ。筆者が読みやすさを追求しても、読者がほんとうに読みやすいかは判断を待つしかない。また、私の文章の改善余地はかなりあると考えている。日々、分析と試行錯誤を重ねている途中だ。
ただ、ここで伝えたいのは、自分なりの作業標準書を作成することと、それを活用することによって、仕事の面白さを発見し、自分を機械としていくことの大切さである。