集中購買をあらためて考えてみよう 5
集中購買の3類型 4「サプライヤーの集中 2」
3.集中購買状態のマネジメント~集中と分散のタイミング
前号までにご説明した集中購買のための方策をおこなって、いざ集中購買が実現しました。さて、バイヤーの次のアクションはどのようなものでしょうか。
前号で「集中購買によって発生するリスクへの対処」について述べました。実は、集中購買でもっとも大きなリスクとは、集中購買が実現してから訪れます。それは、集中が実現し、あるサプライヤーへの発注が増加します。発注額が増加して、バイヤー企業としてはメリットを顕在化させました。調達購買部門は、その顕在化したメリットに甘んじず、メリット確保の維持・拡大に取り組まなければなりません。もっとも避けなければならないのは、集中実現による、調達購買部門や担当バイヤーの「安心」です。
集中購買実現までの過程では、他部門に協力を仰ぎ、時間とお金を費やしているはずです。たまたまさまざまな条件が重なって集中化を実現しました。しかし、苦労しておこなった集中化を固定化としてはなりません。集中購買が実現したら、すぐに次の2点の対応を始めます。
1.集中からあぶれたサプライヤーのフォロー
集中化を実現して発注量が増加したサプライヤーとは、発注量の増加によって調達購買部門だけでなく、社内関連部門を含めた接点が増えてゆきます。しかし、集中購買実現の裏には発注量を減らしているサプライヤーが必ず存在します。その「あぶれた」サプライヤーはどんな存在でしょうか。
集中購買といっても、元々発注していた購入品のすべてを1社にまとめるケースはまれです。ある製品やカテゴリーに「集中」した購買を実現させているはずです。したがって、集中からあぶれたサプライヤーにも、集中購買実現前と比較すれば少量となっているものの、発注が続いているはずです。
私は、集中化が実現した瞬間から、集中化し購入量が増加したサプライヤーよりも、集中からあぶれたサプライヤーへのフォローを意識します。特に、集中化を推し進める過程で、比較検討の結果が僅差であった場合は特に注意します。なぜ、集中からあぶれてしまったのかを、サプライヤーを訪問して説明し、善後策をサプライヤーと一緒に検討した経験もあります。そして、次の案件を集中からあぶれたサプライヤーにも必ず見積依頼をおこないます。
集中購買によって発注を集めたサプライヤーを「ほっておく」わけにもいきません。しかし、バイヤーとして意識してフォローすべきは次なる分散、その先にある次の集中購買へ向けた、集中化を実現したサプライヤーの代替発注先となるサプライヤーなのです。社内関連部門の関心が薄れるからこそ、意識して集中からあぶれたサプライヤーに注目します。
2.集中したサプライヤーへのフォロー
あるカテゴリーにおいて、調達可能性のあるサプライヤーが1社しか無い状態は、日常的な調達リスクが存在します。それは、購入しているサプライヤーの意志です。「もう売らない」「この金額でなければ納入しない」といった、せっかく集中によって実現したメリットと同時に発生するリスクを打ち消す取り組みをしなければなりません。
これは、明確に言葉で伝えられる内容よりも、実は静かに水面下で進行する集中化→固定化の動きをより警戒すべきです。購入製品の仕様や機能とは関係のない組み立て時の着脱方法やメンテナンス部品との締結を特殊化するといった、簡単には発注先を変えられない差別化は絶対に避けなければなりません。集中化したサプライヤーは、集中化した状態を維持しようとします。この「集中化した状態の維持」が、サプライヤーの都合で進められてはなりません。集中化が実現したサプライヤーとの関係は、なによりも効果のある売り上げの増大によって、良好な関係となります。そのような良好な状態に安住を許してはならないのです。
集中購買が実現した後、バイヤーが取り組むべき課題は、集中購買を実現するまでに複数のサプライヤーが競って生まれた緊張感の維持です。もっとも重要なのは、集中購買を実現させる過程で獲得した、調達購買部門がフリーハンドでサプライヤーを選定できる状態の維持です。上図では、もっともシンプルな対処方法として「集中購買を実現した瞬間から、次なる分散購買の準備を始める」をグラフで示しました。集中した状態が未来永劫も最適であるとの保証はありません。集中購買を実現して、発注をまとめたからには、従来よりも高いレベルの要求をサプライヤーにおこなって、獲得しつづけなければなりません。集中購買を実現させる過程だけでなく、集中化を実現した後もより大きなメリットの獲得を求め続けなければならないのです。
集中購買について、何人かのバイヤーの方からこんな質問を受けました。
「集中から分散へと移行するタイミングはいつなのか?(逆も同じ)」
「集中と分散のサイクルの期間・傾向・代表的なルール(があれば知りたい)」
最初の「タイミング」です。これは、集中購買をするための準備が整ったらいつでも良いのです。もっとも効果的なタイミングをバイヤーとして読み、集中化による最大の効果を生むタイミングでバイヤーが意志決定します。いうなれば、状況を的確に掌握して、バイヤーとして「このタイミングだ」と感じた瞬間です。
したがって、集中・分散サイクルの期間に、傾向や代表的なルールはありません。私の経験から申し上げれば、集中購買が実現した瞬間から、集中したスキームには陳腐化が始まります。これは分散購買にしても同じです。したがって、集中化が実現した瞬間から分散化への準備を始め、分散化したら次なる集中化のタイミングを模索します。ポイントは、集中化でも分散化でも、調達購買部門のバイヤーが発注先を自由に決定できる状態を保つ点です。過去のサプライヤーの戦略に沿って、さほど付加価値の高くない、固有の技術でもないのに、些末な理由でサプライヤーが固定化されている状態は、もっとも避けなければなりません。もちろん、サプライヤーとしての企業努力の結果、他に類を見ない差別的優位性を武器に、サプライヤー優位の集中化を強いられるケースもあるでしょう。いや、現在は製品機能のキーコンポーネンツや、レシピの核になる原材料には、そういった製品が多いかもしれません。だからこそ、調達購買部門としてバイヤーとして、発注先を自由に選定できる状態を確保し、維持する取り組みは極めて重要なのです。
今回のテーマは「集中購買」でした。発注先な自由に選定を阻害する条件を、集中化の過程で探ってください。同一製品、カテゴリーで、なぜ発注先が複数社あるのか。複数社が存在する確固たる理由がない場合は、集中化できる可能性があります。すぐに取り組むべきなのです。そして、バイヤーの意志で集中化を実現しましょう。