集中購買をあらためて考えてみよう 2

集中購買の3類型 1「購買権限の集中」

 

前回は、次の通り集中購買の定義付けをおこないました。

 

「バイヤー企業の要求事項やサプライヤーの提供内容を、さまざまな手法によって共通化・標準化・集中化し、双方のリソース活用の効率性を高めメリットを双方の当事者が享受すること」

 

この定義をベースに、集中購買3類型の1つめとして「購買権限の集中」について考えてみます。実際におこなわれている集中購買では、この方法を採用している場合が多くなります。それだけ「集中」しやすい、させやすいと考えられているのでしょう。それでは「購買権限の集中」では、いったい何を集中させるのでしょうか。

 

・具体例:購買窓口の集中

 

いくつかの調達購買部門を持っていて、複数の購買部門が同じサプライヤーから購入を行っている場合、バイヤー企業とサプライヤーの双方の窓口を一本化して、購買窓口あたりの購入量を増大させてメリットの獲得を狙います。この方法の展開事例は多く、次のような例があります。

 

1.サプライヤー選定(ソーシング Sourcing)と購入(パーチェシング Purchasing)を機能的に分割する。

 

これは発注先を決定する部門を集中する場合です。同じもしくは類似製品を複数の工場で生産し、購入品が共通の場合に採用されます。ただ、この場合は集中購買でなく、組織機能と業務プロセスを規定し、ルールの中で集中購買のメリットを常にサプライヤーに要求します。このスタイルでは実務を行っている担当者は自分が集中購買を行っているとの認識は持っていないかもしれません。しかし、集中購買の特徴を組織と業務プロセスに落とし込んで、調達購買担当者が意識せずとも自社のバイイングパワーの最大化を実現する環境を実現させています。

 

このケースのポイントは、複数となる納入先(購入 パーチェシング)とソーシング部門、サプライヤーとの円滑なコミュニケーションの実現です。また、納入先が異なる場合、サプライヤー側から見た納入条件の違いへどのように対応するかとの点です。例えば、バイヤー企業複数の納入先ごとにサプライヤーの納入拠点が存在すれば問題はありません。ところが、複数の納入先に対して、供給拠点が1カ所の場合、異なってくる輸送費の取り扱いをどうするかといった点も、あらかじめサプライヤーと合意しておかなければなりません。

 

また、バイヤー企業内のサプライヤー選定部門(ソーシング Sourcing)と、購入部門(パーチェシング Purchasing)との間の適切なコミュニケーションの実現も重要なポイントです。サプライヤーからの納入を受け、不具合が露見するのは購入部門(パーチェシング Purchasing)になります。そのような場合に、直接サプライヤーとコンタクトするのかどうか、そういった情報をサプライヤー選定部門(ソーシング Sourcing)にフィードバックする方法を設定し効率的な運用を実現させなければ、購入部門には不満が鬱積(うっせき)し、サプライヤー選定部門は「裸の王様」となってしまいます。このようなマイナス点を回避するためには、バイヤー企業内のサプライヤー選定部門(ソーシング Sourcing)と、購入部門(パーチェシング Purchasing)との間で人的交流やジョブローテーションを実現させたり、拠点間や品目毎の情報交換会を定期的に開催したりといった取り組みが不可欠です。

 

2.分散していた購入窓口を集中購買目的で一本化(集中化)する

 

もっとも一般的な集中購買の取り組みです。そして、残念ながら一般的であるが故に、もっとも失敗しがちな取り組み方法でもあります。なぜ失敗するのかを確認しつつ、成功するための方法論を確認してみます。

 

購入数量をまとめてボリュームディスカウント(数量効果)を引き出すのが集中購買です。したがって「購入窓口をまとめる」とは必要なアクションです。しかし、元々購入窓口が分散していた場合「まとめる」を実現させるためにはいくつかの注意事項は必要です。

 

まず、どこの窓口に一本化するかです。多くの企業では本社部門に一本化の窓口を置いて集中購買に取り組みます。本社に窓口をまとめるのは間違いではありません。問題はその根拠です。

 

例えば、これまでまったく本社で購入を行っていなかった場合を想定します。分散購買をおこなっていたときには、もっともバイイングパワーを持っていなかった訳ですね。ところが、バイヤー企業の社内決定で一躍最もバイイングパワーを持つようになります。この典型的な経緯がさまざまな問題の火種になります。

 

つづいて、分散購買の際に最も多くの購買を行っていた窓口の立場で考えてみます。これまでさまざまな取り組みを通じて実現してきた購入価格のメリットを、いきなり社内とはいえ別の部門にとられるわけです。これまで一生懸命に取り組んで、思い入れが強いほどに釈然としない気持ちが残ってしまいます。なにか少し情緒的な事例と思われるかもしれません。しかし、複数窓口を一本化して実現する集中購買では、元々の各窓口を担っていた調達購買担当者全員が一丸となって取り組まなければなりません。一枚岩になるため、各窓口で勝手な振る舞いをさせない取り組みが必要となります。

 

例えば、根拠のない本社一本化よりも、もっとも購入量の多かった窓口への一本化の方が、社内関係者の理解を得やすくなります。同時に、一本化から外れた各窓口とサプライヤーとのコンタクトの制限と、一本化窓口の交渉状況の全体への開示によるプロセスの透明化も有効な手段です。

 

同時にサプライヤーへ窓口一本化の説明と理解も不可欠です。バイヤー企業と同様に、サプライヤーにも複数の窓口を販売体制で持っている場合があります。サプライヤーの全社的な売り上げには影響が無いかもしれません。しかし窓口によっては、売り上げがゼロになる可能性もあります。集中購買を志向するバイヤー企業として、これまで貢献してくれたサプライヤー担当拠点への配慮は必ず行わなければなりません。

 

このような集中購買でメリットを出し続けるためには、窓口の一本化をサプライヤーに宣言し、実質的に1カ所をサプライヤー営業の窓口とするための、従来の利害関係者の認識と行動が合致しなければ実現しないのです。

 

実際に購入窓口一本化による集中購買をおこなっている企業の調達購買担当者にヒアリングを行うと、一本化する/一本化を維持するためのルールが不明確なケースがあります。担当者の口から「ケースバイケースです」なって聞かれる場合もあるくらいです。これは、安易な集中化の典型です。集中すると宣言だけをおこなって、実際の動きがともなっていないのです。これでは集中購買は実現しないのです。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい