集中購買をあらためて考えてみよう 4
集中購買の3類型 3「サプライヤーの集中」
前回は「購入品の集中」について述べました。購入品の集中によってメリットが生じた場合、なぜメリットが生じるほどに、発注品選定の過程で類似仕様に分散していたのか、その原因を追及する重要性について述べました。メリットを獲得するのは重要ですが、購入品の集中は、繰り返し行う取り組みでなく、いかにして再発防止するか。いかに非効率な発注品選定を行わせないかとの観点で、購入要求部門の業務プロセスへの支援を行うかが重要になります。
そして今回のテーマは、集中購買では最後の取り組みとなる「サプライヤーの集中」です。これは、類似品・同一機能品で、複数社(2社以上)に発注している状態を、1社、もしくはできるだけ少ないサプライヤーにのみ発注して、1社あたりの発注額を増やし、発注するサプライヤーへの影響力を強める狙いです。この「サプライヤーの集中」を実現させるために、次の2つの取り組みを行います。
1.サプライヤーを絞り込むための実作業
購入要求部門は購入仕様書か図面を作成します。調達購買部門は、要求内容にもとづいて適正なサプライヤーを選定して、発注し購入を実現させます。その購入要求内容には、できるだけサプライヤーの特定化する要素を盛り込まずに作成しなければなりません。仕様書や図面を参照してみたら、事実上サプライヤーが決定している場合、今回の「サプライヤーの集中」を調達購買部門主導では実現できません。
ただ購入要求の段階で、事実上のサプライヤー選定が行われてしまうケースはあるでしょう。私自身、実務の中でも数多く経験しています。サプライヤーを絞り込むためには、分散して発注しているいくつかのサプライヤーに、分散せざるをえない確固たる理由の存在を見極めなければなりません。当然、世界で1社しか供給できないモノやサービスであれば、その1社に発注しなければなりません。しかし、性能や機能と関係の無い部分の差異によって、発注先が限定されるケースも多いはずです。例えば、自社製品に組み付ける製品を購入するとします。機能的には同じ、もしくは極めて類似性が高いう製品を2社から購入しています。機能と性能は似ていても、締結部分のボルトの径が異なるために統合できなくなります。このような、性能・機能とは関係のない違いによって、発注先を整理統合できない事態にはどう対応すべきでしょう。
まず、購入要求部門へ、性能と関係ない旨の確認をおこないます。統合した場合の問題の有無もあらかじめ聞いておきます。その上で、発注先のサプライヤー数を削減するための協力を要請します。同時に、サプライヤーに対しても、変更する場合の購入価格への影響を確認します。仕様変更だけでなく、購入量の変更(増加)も合わせて依頼します。
そして、機能や性能とは関係ないけど違う部分が特定されたら、以降のサプライヤー選定に際しては、その部分の要求事項に注意を払い、機能・性能に影響しない違いを排除して購入仕様を決定します。
このような取り組みは、とても地道な取り組みです。集中購買といっても一朝一夕に実現しません。しかし、こういった取り組みによって、調達購買部門は真のサプライヤー選定権を獲得するのです。
2.集中購買によって発生するリスクへの対処
調達購買部門が自由にサプライヤーの選定をできるようになれば、発注するサプライヤーの集中化も分散化も、調達購買部門の意志で決定できるようになります。今回は、集中購買によって生じるリスクへの対処を考えてみます。集中購買の勘所は、集中化の効果を出しつつ、リスクの顕在化の防止が必要です。調達購買部門で想定しなければならないリスクは2つあります。
1つめは、集中して発注するサプライヤーの倒産リスクへの対処です。発注を集中するサプライヤーですから、財務面でのリスク存在の確認は十分におこなわなければなりません。それだけでなく、サプライヤー内での事業継続リスクにも配慮します。事業の整理統合の動きは、今どんな企業でも起こりうる生き残りの策です。こういった面は、集中化をおこなう前に、集中するサプライヤーにリスクの存在を明示して、時間をかけて納得のいく説明を求めます。また、集中化するまえの説明内容を、集中化して以降も定期的に求めて、サプライヤー内の変化の兆候の掌握に勤めます。集中するからには、バイヤー企業にとって重要度が増します。重要度に合わせたサプライヤーのフォローを実現します。
2つめは、天災や事故による災害時の供給継続性の確認です。今、多くの企業でBCP(事業継続計画)を策定しています。しかし、多くの中小規模の企業では、計画策定に費やすリソースの不足によって、計画策定が進んでいません。その場合、計画策定の申し入れ、策定確認も重要です。しかし、忘れてはならないのは、どんなに立派な計画を立てても、実際にリスクが顕在化した際に機能するかどうかは別問題である点です。具体的にどのような種類の天災や事故を想定するか。例えば、まだ記憶に新しい東日本大震災と、阪神淡路大震災。同じ大地震ですが、企業活動に与えた被害は大きく異なっています。BCPの策定には、まずどのような被害想定をおこなうかが重要です。しかし、天災や事故による災害による被害想定はとても難しいのが現実です。現時点で、次にどこで地震が起こるのかを完全には掌握できません。最近では、大雨や突風、竜巻といった被害の顕在化も増えています。そういった天災や事故による災害によるリスクをすべて網羅したBCPの策定は事実上不可能でしょう。事実上、多くの企業におけるBCPは、従業員の生命、安全の確保以上の内容は、計画をつくっても絵に描いた餅に終わる可能性が高いのです。
あるサプライヤーへの集中化をおこなう場合、天災や事故による災害時の供給継続性は、バイヤー企業も共同で具体性をもった対応策を設定します。具体的には在庫がもっとも効果的な手段でしょう。完成品の在庫とするか、材料にするか。在庫負担は集中化によってバイヤー企業とサプライヤーの双方に生まれるメリットの中で回収できるかどうか。在庫品の品質は、主だった天災や事故によっても守られるか。そのような点を確認して、リスクの顕在化に備えるのです。