1章-8 モチベーションゼロの仕事術
日本経済がバブル崩壊後に、経済復活ができず呻吟していたころと軌を一にして、「やる気」と「モチベーション」が創造されるにいたった。
国会図書館の雑誌目録を調べてみた。「雑誌記事索引検索」を利用し、「モチベーション」を論題名とするものを検索してみた。すると、1969年までは、それを題材にしたものは、たったの34件にすぎない。同じく「やる気」で検索してみても、1969年までは12件で、バブル崩壊を境に、突然、増加してくる。
1969年まで、そして2005年以降を数えているため、年数の尺が合致していないところがある。ただ、この数を見るだけで、「モチベーション」と「やる気」の恐るべき雑誌記事成長率がわかる。この伸びは、皮肉ながら、かつての日本経済の成長率を見るようだ。
モチベーションは、もともとから問題だったのではない。あるとき、上手くいかないのはモチベーションのせいだと創造されたのだ。このことは仕事人たちにとって大きな変化だった、と私は思う。やる気も同じだ。
いま、私たちは、仕事にやる気やモチベーションは必要不可欠なものだと思っている。いや、やる気やモチベーションのない仕事の成功など、想像もつかないほどだ。これは、やる気やモチベーションの思想的な勝利である。しかも、その考えは、徹底的なほどにひとびとの行動や思考を左右している。
思想の勝利とは、ひとびとが、その思想を抜きには思考すらできない状態のことだ。余談だが、私はこのような勝利の例として、「愛」や「道徳」があげられると思う。私たちは、もう「愛」や「道徳」を否定すること自体、想像すらできない。