0-5.はじめに ~ある中堅バイヤーの挑戦 「お前が世界一の購買部を作ってみろ」 ~

「よし、決まりだな。具体的にどう進めるか、ということに関しては部長と相談して決めてくれ。いいよね、鶴見さん」。社長は部長のほうを振り向いた。「はい。分かりました」若干、しぶしぶ頷いたようにも思えたが、部長もこのプロジェクトに協力してくれることになった。「あとは秘書を通じて連絡してくれれば、空いている時間に報告を受けることもできるから。それだけ言ったんだから、頑張れよ」「はい。頑張ります」。

 

私は自分がジェットコースターに乗っているかのような感覚にとらわれた。わずか一日のことだったが、会社人間としての最悪と最高を経験したのだ。社長命令のプロジェクトリーダーだ。しかも、これまで自分が問題と思っていたことに対して旗を振り改革できる。社長と離れた後、部長はまだ興奮冷めやらぬ私に早速苦言を呈した。「お前ねぇ、普通は社長の前で突然あんなこと言わねぇだろ。もう本当にバカかと思ったよ。

 

たまたま社長が好意的に受け止めてくれたからよかったものを、もうちょっとお前もわきまえて行動しろよ。お前の行動は信じられないよ」上司としては当然の反応だった。部長の言動からは、私に相当怒っている様子が感じ取られた。だけど、ここは言っておかねばならない。「部長、ですけどね。よく社長の言葉が社内報とかに載っているでしょう。そこには『風通しよく、何でも自由に議論できる職場づくりを』なんて書いてるじゃないですか。私は、その意図がどれほど本気かと思って言ってみたんですよ」もちろん思い付きだった。

 

ただ言葉が口をついて出ただけだ。今までの思いがあふれただけだった。だけど、私は話し続けた。「部長、そういうところを若手部員が悩んでいるんですよ。建前では『何でも話せ』。だけど本当は『上の言うことをただ聞いていろ』とかね。あるいは建前では『平等な取引』。だけど先輩はサプライヤとの交渉では机を叩いている、とか。正しいと思ったことを言って、正しいと思ったことをやれる職場にしてやらなきゃダメなんですよ」「ちょっと話が飛躍してるだろ」「いや、全部つながっているんですよ。購買は非科学的で、しがらみとか癒着ばっかりで、正しいことも言えない。

 

これからは『言論の自由』じゃないんですよ。『自由な言論』なんですよ。これまで誰も言えなかった購買の問題点を突いて、そこで自由に議論し、考えて、行動し、変えていかなきゃダメなんです」「分かった。分かった。もう止めろ。お前の気持ちはもう十分に分かった。プロジェクトとして進めなきゃいけないことも分かってるんだから」「失礼は申し訳ありませんでした。ただ、ありがとうございます」「・・・でも、お前本当になんらかの成果は出せるんだろうな。社長も言っていたけれど、あれだけ言ったんだから、頑張んなきゃマズいぞ・・・」部長は続けた。「じゃぁ、まずどういうところに問題があるか教えてくれないか」「ええ、問題点ならいくらでもあります」

私はそうして、購買部の問題と、世界一の購買部を作るための施策を語り始めた。

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