0-2.はじめに ~ある中堅バイヤーの挑戦 「お前が世界一の購買部を作ってみろ」 ~
悩み、焦燥感、行き詰まり、ぼやき、嫉妬、日々すべての感情が自分の頭に渦巻き、追い詰められていた。サプライヤに納期交渉をしに行くその日の朝も、パソコンを開けるといつもの通りのメールが届いていた。不具合報告と、納期調整の依頼だった。「また、今日がこのように始まっていくのだ」。
そして私は電車の中のチラシに目を奪われていたのだ。「あなたらしい生き方、してみませんか」考えてみれば自分はまだ37 歳だった。サラリーマンの区切りである40 歳にはまだ3年間もある。「まだオレはイケるんじゃないか」。そう思った。海外のサプライヤとの間で苦労してきた語学力はそこそこのものになったし、業務のかたわら現状否定のようにコツコツ勉強したこともあって自分なりに蓄積したものは知識はそれなりにある。
これまでの業務評価だって悪くない。いや、購買部の中ではトップクラスといってもいい。うぬぼれかもしれないが、私なら他の企業でも通用するはずだ、と思っていた。「このままどっかの企業の購買マネージャーとして転職してみるか」。そう考えてしまっていた。このままこの会社に残れば、課長にはなれるだろう。
ちょっと課長になる年齢には早いが、37 歳だ。変じゃない。それに、外資系の企業では部長職くらいもおかしくない。「だけど」と私は思った。課長になってどうする?今の苦しみが増えるだけじゃないか。確かに担当ではない分、サプライヤとのストレスは減るかもしれない。だが、何から何まで困りごとがふってくるのも目に見えている。自分は変わってきた、という自負がある。
できないこともできないとは言わず必死で頑張ってきたし、足りない知識があれば週末に自分で金を払って社外のセミナーに参加したことも一度や二度ではない。だが、周囲が私のように努力しているかというと、どうしてもそのようには見えなかった。周りは現状を肯定するか、不満を持っていても変えようと努力していなかった。
行動力がなかった。そう思えてしかたがなかった。部員の質だけではなく、購買部というものが置かれている環境も「何かが違う」と思ってきた。勉強している自分からすれば、学んだことと自分の今やっていることを比較したとき、あまりに差がある。会社の中の位置付けとして購買部がこれでいいのか。そう自答せざるを得ない時がしばしばあった。
まず購買部が設計者の言いなりになりすぎること。「技術的な内容が分からない」という言い訳で、多くのバイヤーがサプライヤ選定の権利を自ら放棄していること。購買部単独で役にも立たない戦略をせっせと作っていること。近代的な分析プロセスが全く無視されており、バイヤーそれぞれの勘や経験だけでコストの査定をしていること。決まりきったサプライヤとしか売買をせず、新しいサプライヤの情報全く知ろうともしないこと。会社のカネだからといって、あるいは忙しいからといって、ロジックもなく進められている業務。「いくら下がった」と、もともと高いコストと比較して自分たちの実績を誇示しようとすること。そのすべてがバカらしく思えた。