CSR調達の実践 8

これまで、グローバルマーケットにおけるCSR調達の実態を述べてきました。今回は日本企業としてやるべき、最低限のCSR調達の実践内容です。

 

  • バイヤ企業/サプライヤーの認識向上

 

どのような企業であっても、CSRへの取り組み、CSR調達が重要であり、今後重要性が増してゆきます。しかしリスクの緊急度合いは、業界や事業内容によって異なっているのが実情です。一つの基準としては、直接消費者とのかかわりを持っているかどうかが挙げられます。BtoBでは、CSR調達の取り組みの必要性を日常的に意識できません。しかし、リスクが顕在化した瞬間に、取り組みへの優先度はもっとも高くなり、リスクマネジメントからクライシスマネジメント=非常事態対応となります。どの企業であっても可能性の違いはあれ、リスクが存在すると考えるべきです。

 

これまで述べたような前提にたってCSR調達を考えるとき、今必要なのはバイヤ企業/サプライヤー双方のCSR調達に対する意識の向上です。調達購買部門では、自分たちだけ意識を高め、行動しても不十分です。サプライヤーへも具体的な課題として投げ掛ける。今、サプライヤーの状態を正しく掌握する。それ以上の対応は、企業ごとのCSR実践度合いに応じて決定します。最終的には、バイヤ企業の設定したCSR調達指針を順守しないサプライヤーから購入しないとの意志決定につなげます。

 

  • サプライヤー監査に盛りこむべき9つのポイント

 

バイヤ企業/サプライヤーともにCSR調達に関する意識を向上させる具体的な行動は、次の9つの内容をサプライヤーの監査項目へと盛り込み、実際に評価します。サプライヤーの新規採用時だけでなく、定期的な継続審査の際にもおこないます。以下の9つの内容をYes/Noで回答してもらいます。以下に示す内容は、あくまでも大項目です。業界や企業によって、必要性の高い内容を加え、より実効性を高めます。

 

1.自社に適用される法令の内容と動向を理解し遵守している

・法人に適用される法令:会社法、民法、刑法、労働法

・企業や業界によって適用される法令:下請法、他

・地域によって適用される法令:条例

 

いわゆる法令順守です。バイヤ企業からの確認で「No」と回答するサプライヤーはいないでしょう。この質問に加えるとすれば「順守すべき法令、規制、条令を具体的に挙げてください」になります。自分たちがどのようなルールの下でビジネスを展開しているのかを一回整理するのも効果的です。

 

2.法令違反しない社内教育や、遵守状況の定期的なチェックをおこなっている

・教育機会の提供(社内/社外)

・サプライヤーを訪問して確認できる法令遵守内容(従業員/労働環境)

 

これは、法令順守をうたうだけでなく、順守するための企業としての行動を問います。調達購買部門では、いわゆる下請法に関する教育が典型的な事例です。これは一回おこなえば済むものではなく、繰り返し定期的に実践して実効性が高まります。

 

3.人権侵害やハラスメントの通報・相談ができる体制にある

・相談窓口の設定

・サプライヤー訪問(監査)時の確認

 

近年では、企業内で起こる「××ハラスメント」が増えています。セクハラ、パワハラ、マタハラ、モラハラ……。こういった事例は、法令違反に該当する事例と、そうでない事例があります。上記1,2で述べた内容が失われてしまった場合のセーフティーネットの仕組みを構築しているかどうかを問います。

 

4.環境(地球温暖化、汚染物質、自然環境)に配慮する具体的な取り組みをおこなっている

・ISO14000取得状況

・各業界におけるグリーン調達やゼロエミッションの取り組み

 

これは比較的理解しやすい内容です。「理解しやすい」とは、すでに考え方や取り組みが一般化していると考えます。このテーマでは、上記の様な質問に「Yes」と回答するだけでなく、第三者に理解できる測定可能な具体的な成果を出す取り組みが必要となるケースが多くなります。サンプルとしてサプライチェーン全体での温室効果ガス削減を目的にした「スコープ3」をご紹介します。「サプライチェーン」ですから、自社の排出量だけでなく、サプライヤーまで含めた管理が必要です。このページには2014年の各企業の取り組み事例が紹介されています。業界も、建設、各種製造業、化学、運送業、情報・通信業、小売業、銀行、保険、不動産と、幅広くカバーされています。

 

5.製品、商品、サービスの安全性が最優先事項と社内で認知されている

・従業員の日常的な姿勢と、唱えられた「異」に立ち止まる風土

 

このポイントには、2つの要素が含まれています。1つめは誰の「安全」なのかとの視点。労働安全衛生といった従業員の安全、製品や機能といった顧客への安全です。2つめは社内の共通認識化と行動との点です。過去に問題となった自動車メーカーにおける「クレーム隠し」事件でも、社内の現場レベルでは製品不具合の事実は認知されていました。しかし現場レベルの誤った判断によって事実が隠蔽されたのが事の重大性を拡大させました。企業にとってマイナスな話を、重要性にかかわらず上位者を含めた共有化できるかどうか。そういった「風土」は、なかなか定量的には測定できません。しかし調達購買部門がサプライヤーを見る場合に、ワンマン経営や、大きな権限をもっている上位役職者の存在は、このポイントへの注意を喚起する事象だと理解してください。

 

6.公開すべき情報と、守秘すべき情報が区別して管理されている

・情報管理規定の整備状況と、危機管理体制の整備

 

つい先日、日本年金機構から約125万件の個人情報の流出が明るみにでました。まだ事件の原因は確定していませんが、これまでの報道ではパスワードの設定がされていなかったと伝えられています。どんな企業でも、個人情報は持っているはずです。個人情報以外にも、自社、顧客、サプライヤーの機密情報を抱えています。情報管理の手順の設定と、実行状況の確認をおこないます。

 

7.地域との共存を意識した貢献をおこなっている

・従業員の直接的貢献:近隣の清掃

・企業として組織敵貢献:地域組織と連携して活動

・金品提供による貢献:寄付

 

このテーマは、ほぼすべての企業が「Yes」と答えるはずです。具体的には、どんなことしていますかと、実際の行動まで確認します。これは、回答の信頼性確保と、相手を褒める「ネタ」の入手が目的です。

 

8.公職(公務員、政治家)との接触は、関連法規を理解した上でおこなっている

・公務員:国家公務員倫理法(同規定)、刑法(贈収賄罪)、不正競争防止法

・政治家:政治資金規正法、公職選挙法、不正競争防止法

 

贈収賄は、一般企業でも多くの従業員が該当しないはずです。民間企業の場合、贈賄側となるケースが多く、原資の準備を考えるとそれなりのポジションでなければ可能とならないためです。したがって、確認をおこなう場合は、ポジションを限定します。一般の従業員に対しては「不当競争防止法」は教育すべきです。どんな企業でも、知的財産権を持っており、自社の知的財産権を保護するためにも、他社の尊重は必要となります。

 

9.反社会的勢力との従業員の個人的、組織的な接触はない

・企業倫理規定への盛り込み

・外部機関への相談とサポート

 

これも、一般的には該当するケースが少ないはずです。確認ポイントとしては「反社会的勢力」に該当する典型的な団体、組織です。これはいわゆる「暴力団」が該当します。近年では、表面的にはいろいろな体裁となっており、暴力団、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標榜ゴロ、政治活動標榜ゴロ、特殊知能暴力集団といった定義が反社会的勢力として定義されています。またインターネット上に個人や企業を誹謗中傷する内容を掲載し、金品を要求するような「ネットゴロ」といった勢力も登場しつつあります。そういった「勢力」からのコンタクトには、「毅然(きぜん)」とした対応しかありません。

 

こういった内容を現状のサプライヤー評価基準に盛りこみます。そのうえで、バイヤ企業内の周知や啓蒙(けいもう)活動をおこなって、サプライヤーの評価へとつなげます。この9つのポイントは、必要最低限の内容です。企業として設定したCSR行動指針によっては、各項目により深い考え方と取り組みが必要となってきます。

 

CSR調達の実践で注意すべき点は、従来であれば「あたりまえ」や、「うちには関係ない(サプライヤーがやったこと)」と、取るに足りない内容であった点です。例えば、私がこれまでサプライヤーに「法令順守されていますか?」と質問して「No」と回答したサプライヤーはありません。しかし「それでは、御社で順守している法令をすべて教えていただけますか?」との質問には、回答があやふやになったり、くちごもったりするケースがほとんどです。これは「あたりまえだから意識していない」状態に該当します。CSR調達には、もっとも大きなリスク要因です。こういったリスク=無意識状態を脱するための最初の確認ポイントを今回、ご紹介しました。CSR調達は、新しく今日的なテーマですので、また新たな動きや規定の設定といったトピックスがあればお伝えします。

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