もっともやさしい未来予測とCSR/持続的調達の関係
人はなぜ、未来を知りたがるのか。身近な未来予測である天気予報は、悪天候から身を守る「メリットが」あります。それでは、いますぐできるもっともやさしい未来予測方法をご存じでしょうか。
それは「単純予測」と呼ばれます。今回の値を予測したい場合には前回の値を用い、次回の値を予測したい場合には今回の値を用います。複雑な分析方法を採用した場合と、的中率は遜色(そんしょく)ないと言われています。企業で「昨年と同じ」で予算を組み決定するのは、時間をかけずに賢い方法を採用したのです。
ただ、長く「前年度と同じ」を継続している場合、注意が必要です。10年前と20年前といった比較をすると、1年ごとでは小さかった変化も、大きな変化へと変貌(へんぼう)します。1990年代、需要不足に悩まされたものの、原料価格が比較的低く推移し、調達購買部門ではメリットを生んでいました。2000年代は、需要は拡大し原材料価格は高騰、2008年にはリーマンショックによって著しい需要不足に悩まされました。1990年代を単純に延長しただけでは2000年代は対処できない時代だったのです。
そして、リーマンショックや東日本大震災など、大きな出来事には、事象に則した対応が必要です。大きく報じられていなくても、企業にとって大きなターニングポイントも存在します。例えば「ブレント・スパー事件」。1995年の出来事でした。
海上油田で使用される巨大なブイ(浮標)をブレント・スパー(Brent Spar)と呼びます。北海油田で使用されたブレント・スパーの処分計画を、所有者である企業が外部機関と共に検討しました。最終的に、陸上処理よりも低いリスク・安価な費用を根拠に、海中投棄計画を立案、英国政府に提示し、1995年2月に承認されました。
同年5月、NGOであるグリーンピースの活動家が、ブレント・スパーの海中投棄計画に異議を唱えました。グリーンピースはブレント・スパー所有企業の製品ボイコットを欧州全土に呼びかけ、売り上げを半減。最終的には、企業イメージへの影響を考慮し、海中投棄計画は断念されました。
NGOの呼びかけに市民が反応し、いったんおこなわれた決定が覆ったこの事件は、CSR(企業の社会的責任)を欧米企業に喚起する重要な役割を果たしました。この事件から、環境意識の高まりと、問題解決に際して必要となる市民との真摯(しんし)なコミュニケーションを学んだのです。現在われわれが取り組んでいるCSR調達の源流もこの事件にあります。
日本のCSR/CSR調達における問題点は、こういったグローバルでの象徴的な出来事が、理解されないまま進められている点です。CSR調達は「不祥事を起こさない取り組み」ではないのです。すでに過去にさまざまな事例があり、いろいろな企業が試行錯誤で対応しています。そういった過去の事例から学んで、小手先ではない本質的なCSR調達の実践が今、すべての日本企業に求められているのです。