1-8調達購買部門の社会貢献
近年「持続可能な調達」の必要性が高まっています。発注企業が要求しサプライヤーが行ったコストダウンと、劣悪な労働条件が結びつき発注企業が批判されています。Corporate Social Responsibility (CSR 企業の社会的責任)に始まり、「持続可能な調達」へ発展した機運は世界的に高まり、企業規模に関係なく全社員を巻き込んだ取り組みが必要です。
☆持続可能な調達の実践
持続可能な調達とは、持続可能な調達のガイダンス規格であるISO20400では「ライフサイクルにわたり社会的、経済的及び環境的に最大の利益をもたらず調達」と定義されています。購入品だけではなく、サプライヤーの事業運営含めて持続可能性を実現します。中核主題には企業全体の社会的責任のガイダンス規格であるISO26000と同じ、次の7点が設定されています。
・企業統治
・人権
・労働慣行
・環境
・公正な事業慣行
・消費者課題
・コミュニティーへの参画およびコミュニティーの発展
「持続可能な調達」は、地球環境の持続性だけではなく、人権やコンプライアンスを含め、企業と従業員、顧客と地域社会といった企業に関連する人々すべての持続可能性を含めて考えます。持続可能な調達の逸失は、企業経営にとって大きなリスクであることを重く受け止め、具体的な解決策を講じなければなりません。
☆サプライヤーとの役割分担
持続可能な調達の実践は、従来の発注条件であるQ(quality 品質)、C(cost コスト)、D(delivery 納期)に加え、環境、倫理、消費者保護、腐敗防止、労働条件や人権への配慮といった要素に対処が必要です。これだけ広範囲の内容すべてを発注企業だけで解決するのは困難です。従来の発注条件、特にC(コスト)とのバランスを考えながら、実現可能な持続可能な調達を、サプライヤーと共同して実現します。
環境面の取り組みを考えます。より安全な原材料を使用するとか、環境への悪影響の除去するために、廃棄物処理に発生するコスト負担が大きくなるかもしれません。コスト負担を、サプライヤーへ押しつけるのではなく、サプライヤーと協力して最小費用で実現方法を模索します。
多岐にわたるテーマの中で優先順位を設定したり、ときには具体的な対処方法を一緒に検討したりサプライヤーへ寄り添う姿勢が不可欠です。回避すべき事態は、サプライヤーには持続可能な調達の実践を依頼したにも関わらず、何の対処もされておらず、持続可能性が失われる事態の発生です。その責任が発注元にもおよぶ想定内の出来事として対策を行わなければなりません。
サプライヤーから購入しただけで、労働条件や環境配慮はサプライヤーの問題、発注企業には責任がないと言い切れないことを重く受け止めて、対応しなければなりません。
☆CSR調達実践への取り組み
持続可能な調達先に掲げられたたくさんのテーマは、一気に解決できません。優先順位を設定し、できるところから継続的に取り組みます。日本では、近江商人の「三方よし」(売り手よし、買い手よし、世間よし)といった言葉にもある通り、古くから事業活動と社会との共生に取り組んできた歴史があります。歴史に裏打ちされた考え方を活用し、製品関連の品質・安全性(消費者保護)、環境への配慮や、情報セキュリティの確保に着手し、必要に応じて、腐敗防止やサプライヤー側も含めた労働者の人権・安全衛生にまつわる問題解決を展開します。(牧野直哉)