悔しくて涙が出ました
以前、SAP社のイベントで講演をしました。スタッフはプロフェッショナルで、環境は最高。そして、数百人の聴衆が満員でした。私は、あちこちで講演をしています。が、ちょっと述べておきたいことがあります。
講演のアンケート結果、びっくりしたのですが、お一人を除くと、「大変に満足」「満足」でした。ありがたいことです。きっと、この文章を読んでいただいている方も、お聞きいただいたかもしれません。しかし、不満と答えたお一人の記述にこうありました。「むしろ言っていることは遅れている。しかし、このていどで聴衆が満足するとは、市場はこんなもんだと興味深かった」だってさ。
私がずっと闘ってきたものが、その記述にありました。
私は、カタカナや流行語で語られる「トレンド」なるものをさほど信じてはいません。私の文章をお読みいただいている方はご存知のとおり、「世間では、こういう流行が叫ばれている。でも、現場や実務で困っているのは、そんなことじゃないんだ」と、常に現場目線で語ってきました。現場のドロドロとした、目を背けたくなるような実情と、つねに添い寝してきました。
たとえば、過去にあれほど叫ばれた、「ビジネスプロセス・リエンジニアリング」でも、「AI(人工知能)」でも、なんでもかまいません。いまだったら、「RPA」でも、なんでもいいのですが、どれほど現場で使われているでしょうか。私は昨年、AIやRPAのセミナーを開催していました。あれだって、現場で使おうと思ったら、相当なハードルがあります。流行語は流れても、定着はたやすくありません。
もっといえば、サプライチェーンという言葉だって、ほんとうに機能しているといえる企業はどれほどでしょうか。すべては基本、すべては不易なのです。
いや、さらにいえば、見積書のコスト査定であっても、どれだけの企業ができているでしょうか。以前、将来の戦略を議論する場に呼ばれたのですが、そこでは「ポストAI」という前提で話を進めていました。私は、「すみません、たとえば機械学習のロジックって、部員の方々はどれくらいご存知なんですか。さらにいえば、AIじゃなくてもいいので、価格査定手法は何をおもちなんですか」と質問したところ、誰も答えてもらえませんでした。さらにいえば、決算書の基礎すらご存知ない部員の方ばかり。
「ポストAI」じゃなく、「AI以前」なんですね。
しかし、こういう私の意見は評判がよくありません。表面だけの、かっこいい言葉をまぶした「戦略論」なるものばかりが価値あるとされているからです。そして、それを売り歩くひとたちは、トップにはウケがいいから困ったものです。だから、現場では苦悩が続くのです。
つねに新たな解決策を探すのではなく、現実を見る。これが一番の方策なのですが、まだ伝わりません。私は、バカにされても、この伝道を続けようと思っています。
(今回の文章は坂口孝則が担当しました)