すみません。これだけは読んでいただけませんか?
コスト削減の仕事をしていると気づく、奇妙な事実があります。私はかつて、コンサルティングでコスト削減を請け負っていました。すると、コンサルタントの多くは途中で心が折れ、そして退職していくのです。
私は、現在では調達・購買組織の、組織変革や取引先評価を請け負っています。そうすると、コンサルタントのメンバーは辞めません。この違いはなんでしょうか。きっと、なにかを削減しなければいけない仕事=すべてをマイナスにしなければならない仕事、に多くは耐えられないのではないかと思います。
コスト削減は、調達機能の重要な仕事と考えられています。ただ、それは100円を99円に。99円を98円に、と、つねにマイナスの方向に志向するものです。本来は、そこに、他部門のために、という他者志向があるはずです。ただ、業務を重ねていると、つねにその意義を失念しがちです。
これを調達・購買関連のマネージャーは認識してほしいのです。たとえばマーケティングや営業のように、何かを増やす仕事は希望にあふれます。しかし、何かを減らし続けなければいけない仕事は、そもそも人間性に反しているのです。だから、まともなひとほど、コスト削減の仕事に行き詰まりを感じて、失意を抱くのです。
よくマネージャーの方々は、部下のやる気のなさを嘆いてみせます。しかし、ほんとうにそうでしょうか。部下からすると、精神の安定を図るために、コスト削減の仕事を避けているのではないでしょうか。
私が尊敬する某氏がいます。相談してみました。「調達・購買のひとは、やる気がないひとが多い」。しかし、某氏は私に逆質問してきました。「がんばったら給料が倍になるのか」。私は、さすがにそれはありえません、と答えました。すると、某氏は「がんばっても給料があがらないなら、何もしない社員のほうがまとも」「何もしない社員のほうが合理的」と言い切りました。私は最初、反感を覚えたのですが、いまでは某氏の発言が正しいと思っています。
繰り返します。調達・購買業務とは、反自然、反人間的なのです。
そのうえで、社員や部下の人間性に期待するのではなく、仕組みやルールで、業務を推進できるように努めねばなりません。「部下が動かない。しかし、それは、上司が仕組みを作っていないせいだ」と認識されるようにしたいものです。
(今回の文章は坂口孝則が担当しました)