調達価格を全公開したらどうなるでしょうか

マネジメントで有名なピーター・ドラッカーは、文章の執筆にあたって、内容を口頭で語り、それを文字化してもらっていたようです。あの密度を口頭で述べていたとは信じられません。文字通り偉人です。

私がドラッカーで好きな言葉は、人類が豊かになったのは働く時間が長くなったからだ、というものです。一日の労働時間が長くなったからではなく、働ける年齢が伸びた、という意味を指します。生産が増えることによって人類に富をもたらした、というこの言葉は、労働年齢が伸びるポジティブな側面も教えてくれます。

また、「激動の時代に最も危険なのは、激動そのものではない。昨日の論理で動くことだ」とも語っており、示唆に富んでいます。いま、口では変革だ、改革だ、激震だ、と語りながら、ほんとうに何も変わっていない個人や組織ばかりですからね。

たとえば、CSRの名のもとにさまざまな倫理が語られています。しかしそのほとんどは、サプライヤが高潔かどうかを調査するだけで、なんら自身の実態は変わるところがありません。せいぜい、接待は受けないようにしようとか、そのていどです。

しかし、「激動の時代に最も危険なのは、激動そのものではない。昨日の論理で動くことだ」というドラッカーの言葉が真実だとすれば、これまでの調達・購買のやり方をそのまま実践することこそ危険でしょう。

たとえば、エバーレーンという会社があります。ここは衣料メーカーですが、やることが過激です。衣料の価格が販売サイトに掲載されているのですが、なんと、原価がすべて公開されています! いや、過激と思うのが間違いなのでしょう。同社は、こうやって消費者に透明性を確保し、適正な利潤を確保しているとアピールしているのです。

その他、サプライヤや生産地を全公開している取り組みもあります。それまでどのサプライヤと付き合っているか等々の情報は機密に値し、口外されませんでした。しかし、よくよく考えれば、なぜ公開できなかったのでしょうか。それこそ旧来の慣習ではないでしょうか。

かつて私の師は「情報が盗まれて、簡単に模倣されるのだったら、早めに模倣されたほうがいい」といいました。たしかに、上っ面の情報が漏洩するだけで模倣が可能であれば、それはノウハウとはいえません。逆にいえば、模倣できない、もっといえば情報化すらできないのがノウハウといえるのではないでしょうか。

私は、調達価格をすべて公開するトレンドがやってくる、と予想しています。それがおそらく、これまでの常識とは乖離したニューノーマルになるはずです。

ところで、私は自分が働く過程で得た知見もすべて公開することにしています。書籍でも、基本的にノウハウの出し惜しみはせずにすべて書いています。「ネタ切れになりませんか」と訊かれますが、ずっとネタ切れなので、ネタ切れに「なる」ことはありません。恒常的だからです。その都度、ネタを構築すればいいので問題がありません。

(今回の文章は坂口孝則が担当しました)

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