考えるための5つのポイント(牧野直哉)

先日ある企業から依頼を受け、調達・購買部門の管理職向けの研修を行いました。テーマは「どうしたら考えられるか」。果たして調達・購買業務のトレーニングなのだろうか?と思いつつも、数か月間悩んだ結果、5つのポイントを受講生へ伝えました。

1.同一業種・業界でも業績は大きく異なる時代認識をもつ

かつて日本が高度成長を実現していた時代は、どんな企業でも日本経済全体が成長する恩恵を受けられました。しかし現代、同じ業界で同じ製品やサービスを扱っていても、業績には大きな差が生じます。例えばユニクロを展開するファーストリテイリングは、過去20年間で売上を25倍にまで増加させました(1998年 831億円→2018年21,300億円)。しかし他のアパレル業界の企業で、同じような成長を実現した企業はありません。なぜファーストリテイリングだけが高い成長を実現できたのか。それはユニクロが他の企業と比較して優れた戦略の立案・実行にあります。

2.ビジネスパーソンは「戦略」を紡ぎ出すために考える

ビジネスパーソンが考えねばならない理由は、事業に欠かせない戦略の創出にあります。そして立案した戦略を実行するために、日々の業務における意志決定を実現するための方策を考え導き出さなければならないのです。企業では、まず考えて編み出した戦略を社員全員が共有し、同じ目標・方向へ向かうことも必要です。したがってどんな戦略なのか加えて、社員がどのように同じ認識の元で業務を進めるか。共有するための方策も同時に考える必要があります。

3.同じ計画を繰り返しても必ず、絶対に結果は違う。なぜ違うのか?を考える

ときには、昨年度と同じ、前回と同じと、過去と同じ結果を期待して同じ取り組みをおこときもあるでしょう。もっとも実現性が高い判断があれば、意志決定としては全く問題がない。重要なのは、前回意志決定を行って実行した環境と今回の環境は必ず異なっており、全く同じ取り組みを行ったとしても、結果は必ず違っている点。したがって結果を十分に分析して、同じ戦略や計画、実行内容で良いのかの事後の評価と、次の戦略への反映は欠かせない。事前に余り考えずに前例踏襲を行えば、事後にしっかり考えるプロセスが必要。

4.人は必ず考えて生きている。自分が考えられる/考えやすい環境を探す

ビジネスパーソンが業務を進めるからには、どんな内容であったとしても必ず考えているはず。全く考えずに仕事をしているわけがない。ポイントは考える方法論。考えられる環境は人それぞれであり、自分はどんな環境で考えられるのかを見つけて、考えられるシチュエーション、場面設定を繰り返し行えば考える時間が増える。例えば私の場合、車の運転中や電車に乗っているときにいろいろ考えて、アイデアや仮説、方向性が浮かぶ/落ちてくることが多い。それぞれの場面では、何かを考えようと集中し必死に頭をめぐらせているときではない。他のことに集中しているか、ぼぉーっとしている場面で、でも何らかの問題意識が頭の片隅にあって低負荷で考え続けている状態がもっとも考えられる状態と理解している。いきなり何かのテーマや問題意識を考えるよりも「自分はどんなときに考えているか」をまず考えて見つけて理解し再現すれば良い

5.考えるのに必要なのは紙とペンだけ

考えるのは内的な取り組みではなく、考えた結果を紙やノートに書き、パソコンに入力して「アウトプット」すれば、少なくとも個人的には考えるプロセスを最後まで完了しゴールしたことになる。この「最後までやり切った」感が重要。紙やノート、パソコンに記録する理由は「昨日と今日は別の人」だから。過去のメモや発信したメールを見ると「おれ、こんなこと考えていたんだ」と思うことがある。自分は変わっていないつもりでも、誰それの区別なく加齢しているし、経験値は日々上昇している。会社の戦略にしても、少なくとも年に一回は考えなければならない場面がある。いわゆる戦略理論を展開した文献の読みこみも重要だが、これまで自分が考えた結果を読み返せば、それだけ選択肢やアイデアが増える可能性も高い。

アイデアが浮かぶのはパソコンに入力するよりも手で書くときといった言説があるが、これこそ人によって違いがあるはず。自分はパソコン入力が良いのか、それとも手書きが良いのか、どちらが自分によりフィットしているのかは、自分しかわからない。私の場合は、ノートやペンといった文房具が好きなので、従来ノートを使ってきたが、最近では場面によって使い分けをしている。セミナーの内容は、まずいろいろ調べながら考える。自分へインプットしつつ、問題意識のアウトプットを同時に行うプロセス。ここでは、どうも自分はパソコンでやった方が、作業がスムーズに進むなと感じている。そうしたインプットとアウトプットを同時並行的に行って、最後の最後で、テキストを作成する。テキストを作成したら全てプリントアウトして、赤のボールペンで誤字脱字の訂正、表現の推こうとともに、内容の確認を行う。

最後に脳の仕組みや考える方策は人によって異なり、これだ!と思う方法論でも、その効果がずっと継続する確証はない。考えるためには自分のクセを見極めて、考えやすい環境設定を行うことから始めるべきと考える。よく「考えていない」と他人を表する人がいるが、考える深さに違いはあるものの、全く考えていない人はいません。自分がどんな状況で考えやすいのかを見極めることから始めれば、誰もが考えられるようになるはずなのです。

(了)

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