ほんとうのBCP作成方法 3(牧野直哉)

個人版BCPは以下のリンクからダウンロード可能です。
http://ur0.link/KWyg

前回は個人版BCPの内容で、まず行うべき「リーダーの選定」についてお伝えしました。今回はBCP作成に必要な「情報」、必要となる「理由」、「活用方法」についてです。

家族全員の連絡先を一覧化します。これらの情報は、携帯電話やスマートフォンに保存されているデータでしょう。最近のスマホのアドレス帳には、個人に複数の電話番号やメールアドレスが登録可能です。そういったデータを活用し「一覧化」し、その上で印刷し家族とこのデータを共有します。

印刷した紙は持ち歩きます。持ち歩くときは財布に入れておきましょう。このデータは、家族の個人データそのものであり、紛失し第三者に悪用される可能性もあります。皆さんが持ち歩く物では、運転免許証やクレジットカードが入っている財布と同レベルの管理が必要です。

印刷した紙を持ち歩くのは、携帯電話やスマホの「電地切れ」を想定した対処です。昨年3月末現在、少なくなったとは言え日本全国に約15万台公衆電話があります。2000年には約73万台ありましたので、携帯電話の普及とともに減少の一途です。しかし災害発生時には活用できる貴重なインフラでもあります。

私たちがふだん使用する電話は「一般回線」に分類されます。電話が混みあった場合は、通信制限が行われ一部の発信、接続の制限を受けます。一方公衆電話は一般市民が利用できる数少ない優先電話で通信制限をうけません。災害発生後、公衆電話には人が長蛇の列を作るでしょう。長時間ならんであと数人で待てば電話できるとき、スマホの電池切れなんて事態にならないためのデータのバックアップが必要なのです。

電話番号だけではなく、メールやソーシャルメディアのアカウントを含めます。これらは、一方的に「自分が無事」との連絡を相手に行う目的です。これらもスマホ上で行われるはずです。しかし自分のスマホが故障やなんらかの理由で使えない場合でも、データさえあれば別手段の検討が可能です。

大きな災害に直面したら、まず家族の元へ行きたいと考えるのが普通です。しかし現在首都圏の行政は、地震に代表される大災害が発生した場合、発生時間が平日の業務時間帯であれば、すぐには帰宅しないでほしいと呼びかけています。以下の写真は、先々週首都圏の電車内で見かけたつり広告です。


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「大地震、災害時は あなためのために帰らない」と題された広告。その理由は2つあります。1つ目は、災害発生の直接的な被害者救援の優先です。救助隊が現場へ向かいたくても、交通渋滞で思うように現場へ行けない。東日本大震災の発生直後、首都圏でも10分程度で行けるはずの場所に数時間を要したと報告されている例もあります。救えるはずの命が救えなくなってしまう。災害発生直後の避難は被害拡大に加担する可能性があるのです。

もう1つは「群衆雪崩に巻き込まれる」。東日本大震災発生直後に、道路にはみ出して歩くビジネスパーソンの姿がテレビでもTwitterでも伝えられていました。道路にはみ出すほどの多くの人々が階段や歩道橋に多くの人が集中すると危険です。階段で将棋倒しの発生リスクをヘッジするためには、近づかないのが一番。近づかないためには、人が集中するであろう時間帯=災害発生直後は、当面の安全を確保した場所にとどまるべきなのです。

ここで調達・購買部門として必ず考慮すべき点は、来訪しているサプライヤ営業パーソンへの対応です。行政は「帰らない」でほしいと伝えています。その要請を実現するためには、サプライヤの営業パーソンが自社で一時避難する事態を想定しなければなりません。具体的には次の3つです。


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1.来訪者を含めた動静確認
事前に来訪する連絡のあった(アポ有り)サプライヤが社内にいるかいないか、いるならどの部署にいるのかといった情報を、調達・購買部門で集約します。受け付けで来場者の管理を行っているでしょうから、全来場者の動静確認をどのように行うのか、社内的なコンセンサスの確立が必要です。

2.来訪者は社員と同じように扱う
もし調達・購買部門の入る建物に危険があれば、社員と同じく避難・誘導します。食事や飲料水の提供も同じです。企業によっては、災害発生時の行動について来訪時に確認する企業もあります。次のような内容をサプライヤへ伝えます。

「大規模災害発生時は、担当バイヤーである牧野の指示に従ってください。一時避難場所は、事務棟前の駐車場です。避難は放送が入れば放送の指示に従ってください。その後の対応は、災害の規模や被害の大きさで決定します」

3.来訪者の意志を尊重
ここが社員と来訪者の異なる点。社員の場合は企業BCPで設定された手順にそって安全確保と業務再開へ向けた取り組みが行われます。しかし、来訪者には所属企業のBCPがあるはずです。例えば、行政の指導内容に沿って会社に待機する場合でも、来訪していた人が「帰りたい」のであれば、その意志を尊重すべきです。もし「安全が確保できるまでとどまりたい」希望があれば、これは社員と同じように扱います。企業としての責任と指示命令系統の有無に依存します。サプライヤの営業パーソンに、社員と同じような指示命令はできません。したがって自社の方針と個人の意志が衝突した場合の対処も想定しておく必要があるのです。

(つづく)

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