今どきのサプライヤー訪問を考える(牧野直哉)
(4)工場訪問「目的」と「同行者」に対応した準備と実践
前回に引き続き、サプライヤー訪問実践論をお伝えします。サプライヤー訪問の中でも、典型的な工場訪問実施内容は、次の通りに分類されます。
表にある「訪問目的」欄にある内容について、解説を加えます。
「優位性の確認」するに至った資料を準備します。訪問するサプライヤーのHP記載内容や見積書や提案書が該当します。そういった資料をベースに、サプライヤーにおける確認事項をあらかじめ列挙します。列挙した内容は、前々回の記事でも述べたとおり、事前にサプライヤーへ送付します。
サプライヤーへ送付した内容は、同行者にも確実に周知します。同行者がある場合は、会社として組織的な訪問になります。したがって、バイヤーのみで訪問するよりも多面的な確認が可能です。同じ説明を同行者と一緒に聞いて確認するもよし。確認ポイントが多い場合は、分担して聞くもよしです。同行者との現地での実施内容に沿って、事前に役割分担を決めれば、より訪問目的の共有が図れます。
一般的なサプライヤー訪問時の確認内容は、以下の通りです。
まず品質です。ISO9000や業種によって設定されたセクター規格(自動車、医薬品、食品、航空宇宙)と呼ばれる規格に沿った管理がおこなわれているかを確認します。かつては規格があれば安心といった雰囲気もありました。しかし、ただ規格に認証されているだけで安心はできません。規格をもっているのは、規格に準拠したシステムや定義された言葉が使用され、共通言語として理解できる程度とする前提がもっとも適しているでしょう。実際に規格に準拠して社内業務をおこなっていれば、さまざまな質問にも、的確な回答が提示されるはずです。
ポイントは、規格にそって
A どのようなルールがあるのか(規定やマニュアルの確認)
B ルールが守られているかどうかは、どのように判断するのか
(チェックリストの確認、フォームと現物、記入と確認の区別)
C 判断した記録が残っているかどうか
(資料の保管期限に関する規定と、保管方法(データか、文書か)
の3点です。ISO認証機関の監査と同じような確認とイメージしてください。できれば、こういった確認をおこなう場合は、工場の現場を見る前におこないます。その上で、現場でどのように実践されているか説明を受ければ、バイヤーの理解も深まるはずです。
品質では、「定量化」されているかどうかをまず確認しましょう。定量化されずによしあしのみを確認する場合は、限度見本に代表される判断基準の有無をチェックしましょう。なぜよしと判断するのかが明確なのかどうかが重要です。判断基準は、バイヤー企業からの要求内容にも依存します。例えば「キズ、汚れなきこと」といった表現が注文内容にある場合、バイヤー企業とサプライヤーの間で、キズとは何か。汚れとは何かについての合意事項がなければ、ドラブルの元になります。この点は、少し時間を費やしてサプライヤーと認識の共有化をおこなっておくと、後々のトラブルが回避できます。
続いてコストです。コスト情報は、サプライヤーを訪問したからといって、質問して答えてもらえる内容ではありません。コスト情報の掌握に必要なのは、換算すればコスト情報になる質問の工夫です。
Q1.発注した品物の製作期間はどれくらいですか?
⇒工程を掌握して、各工程の必要人員や設備情報を入手すれば、人件費や加工費の概算計算が可能。
Q2.原料や材料の歩留まりは?
⇒投入量に対する産出量の目安。原材料費の判断基準
Q3.この工程の人員は何名ですか?時間当たりの生産量は?
⇒Q1の質問と合わせ考えれば、工程当たりの生産能力の掌握が可能。
Q4.各工程で目標原価を定めていますか?
⇒成り行きではない、コスト面での管理が実践されているかどうか。定めているかどうかを確認する。後々のコスト削減活動ができるかどうかに関係
これらの質問は、そのものズバリを聞くよりも、少し抽象的、かつ営業パーソンではなく、現場の管理監督者に質問します。また事前にある程度の数値を見極めて「××ですか?」と聞くのもいいでしょう。ただの類推がサプライヤー情報に変わります。
あと、コスト情報では、訪問先の入り口から会議・応接室、現場に至るまで、安全意識と無理や無駄がないかを意識します。安全意識と無理・ムダの存在は、5S管理のポイントでチェックすると理解が進みますし、工場訪問時の質問にもなります。5Sの実践は、次の4つの質問を詳細に展開して確認してゆきます。実際にサプライヤーの社内で見たもの、感じた内容に対し、次の4つの質問ができないかどうかを確認してみましょう。
①ルールは決まっていますか?・・・基準や権限について
②場所や設備は決まっていますか?・・・置き場、レイアウト
③表示されていますか?・・・社内、工場内表示、掲示、伝票・書類
④収納や保管方法は?・・・ツールや道具、原材料や部品、書類
例えば、サプライヤー訪問時に説明を受けた内容について、
「それは社内規定としてルール化されていますか?」
「文書に規定されていますか?」
といった質問は、汎用的に使える内容です。サプライヤーがバイヤー企業からの来訪者に説明している内容は、当然ながらサプライヤー社内では誰でも、少なくとも担当部分については理解できているはずです。問題は、バイヤー企業からの来訪者は、長期間滞在したり、何度も来訪したりできません。限られた時間で、実態を掌握する必要があります。したがって、ルールの存在や表示といった、サプライヤー社内の人間が理解する手段・方法を確認するのが、正しく業務が進んでいるかどうかを見極める最短距離なのです。
(つづく)