【連載】調達・購買の教科書~インフラ、非大量生産系(坂口孝則)

今回の連載は色塗りの箇所です。

<1.基礎>
売上高、工事原価、総利益(粗利益)
資材業務の役割
建設業法の基礎
技術者制度
下請契約の締結

<2.コスト分析>
調達・委託品分類とABC分析
取引先支出分析
注文件数とコスト削減寄与度分析
労務単価試算、適正経費試算
発注履歴使用の仕組みづくり

<3.コスト削減>
取引先検索、取引先調査
コスト削減施策
市中価格比較
価格交渉
VEの進め方

<4.取引先管理>
ベンダーリストの作成
施工品質評価、施工納期評価(取引先評価)、取引先利益率評価
優良表彰制度
協力会社の囲い込み、経営アンケートの作成
協力会社への上限設定

<5.仕組み・組織体制>
予算基準の明確化、コスト削減基準の設定
現業部門との連携
集中購買
業務時間分析
業務過多の調整

・調達・外注分類とABC分析

ABC分析が品目軸での分析にたいして、取引先ごとの支出金額で並べるものを取引先別支出分析と呼びます。やることは、品目軸が取引先軸になるだけですから、さほど大きな違いはありません。サプライヤ別のABC分析ともいえます。

品目と取引先の二軸で分析すれば、次に、寡占分析も可能となります。これは、たとえばそれぞれの物品や外注業務の種類ごとに、上位8割を占めるのは何社かを見える化するものです。

かならずしも寡占が良くないかどうかは置いておいて、数社のみが上位を占めているのか、あるいは、複数社の競合状態にあるのかを確認できます。しかしこれは重要な分析です。というのも、たしかにすぐれた取引先であっても、かならず安穏の罠があるからです。つまり、自分たちにしか注文が来ないと思うと、かならず手抜きが生じます。この手抜きの意味は、重大事故が起きる意味では必ずしもありません。価格が下がりにくくなったり、あるいは、品質が低下したりすることもあります。すべての改善源泉は、競争状態にあります。

その次に実施するのは、優先度分析です。

これは、取引先と品目の分析を含めたものです。まず横軸をご覧ください。これは、その品目にたいして、このところ、どれだけコスト削減の取り組みをしたかを指します。たとえば、右は頻度「低」を指します。2年間、あるいは3年間に一度もコスト削減施策をおこなわず、またコスト交渉を実施していない場合は、その「低」にあたります。

逆に、むしろ毎年、毎半期に交渉を繰り返していたら、頻度「高」にあたるでしょう。これは、それぞれの品目において、相対的なちがいを明確にします。

そして、次に、縦軸です。市場難易度とは、文字通り、市場においてコスト削減しやすいかどうかの難易度を指します。しかし、これが難しい。どんな品目がコスト削減しやすくて、どんな品目がコスト削減しにくいか、なかなかわかりません。
そこで、使われるのが2つあります。ハーフィンダールインデックスと、自社版ハーフィンダールインデックスです。

・ハーフィンダールインデックス

ハーフィンダールインデックスとは、それぞれの業界の占有率を表現したものです。つまり、サプライヤがその業界を独占しているか、あるいは、無数のサプライヤが競争状態にあるかを表現したものです。

ハーフィンダールインデックスは、理論上、最小値は0にもっとも近く、そして最大値は10,000にもっとも近くなります。これは各サプライヤのシェアパーセントの自乗を合計したものになります。分かりにくいので説明します。

業界で1社が独占としましょう。そうすると、100%のシェアですから、100×100=10,000です。これにたいして、シャアを4社が20%ずつ取り合っているとすると、20×20+20×20+20×20+20×20=1600となります。直感的に、数字が小さい方が、競争が激しいとご理解いただけるでしょう。

この数字を、調達・購買担当者が調べるのは大変です。というのも、身近なサプライヤから話を聞けても、それが日本マーケット全体がどうなっているかわからないからです。

そこで、このハーフィンダールインデックスは、公正取引委員会が「生産・出荷集中度調査」として公開しています。公正取引委員会が、なぜこの指標を調査しているかというと、あまりにも特定企業が業界を独占してしまえば自由な競争が阻害されかねないからです。

したがって企業のM&Aなどときに、ハーフィンダールインデックスの数値を気にします。なお、彼らは独占禁止法の円滑な運用を目的としており、ハーフィンダールインデックスの調査を2年ごとに実施しています

調達・購買部門としては、この数字を業界のM&A可否指標というよりも、その業界がどれほど寡占的なのか確認する指標となります。10,000に近ければ近いほど、寡占あるいは独占なわけですから、コスト削減がしづらい、あるいは交渉してもあまり相手が価格を下げるインセンティブをもっていないといえるでしょう。いっぽうで、ゼロに近ければ近いほど、競争が盛んな業界であるわけですから、コスト削減や価格交渉がしやすい業界といえます。

次に、自社版ハーフィンダールインデックスについて考えてみましょう。自社版ハーフィンダールインデックスとは、自社の調達量が市場全体として考えた際に、その特定領域を何社で構成しているかの指標です。1社であれば、当然そのサプライヤ頼みなっているわけですから、10,000となります。無数のサプライヤがいれば.数値は小さくなります。このようにして、自社版のハーフィンダールインデックスを使って競合環境分析できます。

さらに、サプライヤの決算書をあわせると、多層的な分析が可能です。これはあくまで一つの例ですが、第一象限から第四象限まであったとします。横軸は、利益の多さです。そして、縦軸は原価の多寡です。さらに、その縦軸の意味として、工事そのものの原価が低いのと、販売費及び一般管理費の低さがあるとします。

そこで見ると、「工事原価が低い」さらに「販売費及び一般管理費が低い」第一象限の取引先は、もっとも交渉しやすい相手となるでしょう。余裕があるためです。これは異論があるかもしれません。その低コストは取引先の努力によるものであり、こちらが刈り取る対象ではないためです。しかし、実務的には交渉のやりやすさは欠かせません。

そして、第四象限は、「工事原価が高い」さらに「販売費及び一般管理費が高い」ところとなります。ここの取引先は、もちろん、中長期的には指導の対象となるでしょう。しかし、交渉で値下げすると、経営危機に陥りかねません。もっとも注意すべき対象です。

・依存度分析

なお、取引先が、自社に依存している度合いをどのように見ればいいでしょうか。

ずばり、依存度といいます。直感的にいえば、その取引先への発注額を分子において、分母にはその取引先の全売上高を置きます。期間としては年間で計算すれば良いでしょう。そうすると、文字通り、どれほど依存しているかがわかります。一般的には、依存が高すぎるほど「あやうい関係」です。取引先は、自社がもし倒産してしまうと、運命共同体的な状況に置かれているからです。

経営側の考えとしては、もし主要取引先が傾いてしまっても、盤石な経営を実現するのがふさわしいといえます。できるだけ分散したほうが、リスクヘッジになります。金融の世界では「タマゴをおなじ籠に盛るな」といいます。カゴが崩壊してしまうと、すべてのタマゴが割れてしまうためです。ですから、特定銘柄への投資でけではなく、複数銘柄、債権、海外へと分散投資がふさわしいとされます。

ただ、いうのは簡単です。実際には、特定の企業のみとつきあっているほうが効率的ではあります。考えてみれば、取引先からすると、一つの企業だけとつきあっていれば、やり方も熟練できますし、「あうんの呼吸」でコミュニケーションが可能です。

その妥協点はどこにあるのでしょうか。私は、依存度の境界線を、10%としています。たとえば、10億円の売上高があれば、特定顧客は1億円の売上高が最大という意味です。売上高の10%を握られている顧客がいて、しかし、10%なので、その売上高がなくなっても、死にはしない、というレベルです。

これは逆にいえば、10%の首根っこを捕まえている意味で、死にはしないが、たいへんな痛手だとはいえます。さらに上場企業の開示基準で売上の10%が変動する場合は、ただちに株主に連絡せよとなっています。それだけ10%の売上をもつ意味は大きいといえます。

(つづく)

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