短期集中連載!バイヤーのトラブルシューティング 3(牧野直哉)
バイヤーが行うトラブルシューティングの3回目。今回は品質に関するトラブルが発生した場合の対処です。サプライヤーからの納入に際して発生する問題には、いくつかの典型的な問題が存在します。
基本的に問題が発生した場合は、発生原因の究明と、問題の解消を同時進行で進めます。顧客の納期が迫っている場合には、問題の解消を優先して進め、発生原因の究明は少しタイミングをずらしても良いと判断するのも重要です。
何らかの問題が発生した場合、バイヤー企業として避けるべきは、問題の解消や原因究明といったアクションに関連したサプライヤーとの窓口を一本化します。すでに問題が発生により、バイヤー企業だけではなくサプライヤーも混乱しています。その混乱に拍車をかけるような、バイヤー企業の複数のセクションからのサプライヤーへお問い合わせや対応の指示は避けるべきです。サプライヤーに何を要求し、具体的などのようなアクションをとらせるのかは、バイヤー企業の中でまずコンセンサスを得て、調達・購買部門を窓口にしてサプライヤーに連絡する。もし、品質保証部門にサプライヤーの品質管理がある場合は、品質保証部門を窓口にしても構いません。しかし調達・購買部門も、やりとりの経緯は的確に掌握すべきです。
窓口の一本化が果たされていれば、後は具体的な発生事象に基づいて対応を進めます。これから3つのケースについて解説を加えます。
一つ目は、バイヤー企業の品質要求を、サプライヤーが理解していない場合です。本来であれば、バイヤー企業がどのような品質基準を要求しているのかは、サプライヤーが十分に理解していなければ納入できません。しかしながら、顧客からの要求内容に変化があった場合、サプライヤーに変化した内容が十分に伝わっているかどうかがポイントになります。実は、昨今の調達環境がそういった変化をサプライヤーに伝えづらくなっているのです。
私がコンサルティングの現場や、セミナーで聞く「見積依頼」の方法が、実に大きなリスクをはらんでいます。メールで行われる見積依頼は、サプライヤーが納入するために必要な情報を網羅していないケースがほとんどです。もちろん、直接的にモノづくりやサービスに関連する内容は含まれていても、依頼内容に関連するような品質条件について明確に示されないケースがほとんどです。これには2つの大きな要因があります。
1つは、そもそもバイヤーが品質に関する要求を理解していない場合です。これは、顧客から要求される特別な品質条件についての情報を、営業部門から社内に対し伝えていないケースが原因として考えられます。
営業部門が社内に展開する受注情報は、まず受注内容。続いて受注金額。品質条件の優先順位は、残念ながら低いのが実情です。品質問題が発生した場合に「聞いていなかった」「知らなかった」といった発言が行われるのは、まさにこういったケースが該当します。
続いて、本来であればサプライヤーとの売買手続きを簡素化するために設定した取引基本契約の問題です。取引基本契約の中に、品質に関する条項が含まれている場合、それですべての品質にまつわる問題が担保されていると考えてしまいがちです。しかし、取引条件とは時間の経過に伴って変化するものであり、取引基本契約の内容も、大きな変化のうねりには、具体的な対応が欠かせません。しかし、取引基本契約の見直しは、バイヤーにとって大きな負担になります。変更内容がサプライヤーにとってコストや手間が増加する場合、バイヤーはそういった変化をできるだけ回避したいと考えるのが一般的です。
取引本契約における品質にまつわる条項は、一般的に不十分であるとの前提立った方が、後々問題を起こさずいます。取引本契約は、あまりに多くの内容を含んでしまうとサプライヤーとの合意できません。したがって、どんなサプライヤーにも普遍的に対応できる内容にとどまっているのです。特に、何か新しいプロジェクトや製品にまつわる調達を行う場合は、顧客の品質要求に何か変化は無いのかといった点も、社内で共有すべきなのです。
二つ目は、サプライヤーの能力に何らかの好ましくない変化が発生し、従来と同じようなアウトプットができなくなっている場合です。時の経過とともに、バイヤー企業やサプライヤーの従業員の年齢は上がっていきます。また、設備年齢が上昇すれば、それだけ故障の確率は高まりますし、メンテナンスにも手間がかかります。同じ品物を継続的に購入する場合でも、生産する環境は日々刻々と変化をしています。そういった変化の中で、同じ品質を維持するためには、微妙な変化への対応が欠かせません。ただ同じことをすればよい、のではないのです。
定期的にサプライヤーの監査や評価を行っている場合は、従業員の年齢や、設備の導入後の経過年数といった情報を掌握し、そういった経年変化に対する対応をどのように行っているかも併せて確認しましょう。
三つ目は、サプライヤーが納入したモノの確認を、バイヤー企業が怠っているケースです。こういった事態は、バイヤー企業の落ち度になりますのであまり想定をしたくない内容ですね。しかしサプライヤーからの受け入れの実情を考えると、こういったケースも想定しなければなりません。
受け取った製品を、機能、外観、品質のすべてにわたって100%確認していれば、こういった問題は起こらないかもしれません。しかし100%の確認は現実的ではありません。結果的に、サプライヤーの出荷検査をバイヤー企業の受け入れ検査として設定するような保証納入や、受け入れたものから一部を抜き出して検査をしているのが実態であるはずです。
サプライヤーと保証納入について合意している場合は、品質は担保されている前提に立ちつつも、定期的にバイヤー企業でも受け入れ状況を確認しなければなりません。保証納入が正しく機能しているかどうかをバイヤー企業で継続的に確認しなければなりません。抜き取り検査については、抜き取りする数量設定を柔軟に行います。例えば納入するに対して1つ抜き取って検査をするだけでは、納入数量中に複数の生産ロットが含まれている場合、不具合を見落とす可能性が高まります。納入数の変化があった場合は、変化に対応して受け入れ検査の基準も見直す必要があるのです。
新たなサプライヤーを採用する場合、バイヤー企業は調達・購買部門だけではなく、品質保証部門や購入要求部門を含めて、サプライヤーの品質確認を行っているはずです。しかし、継続的に納入される場合、また一定期間を経過し再び納入が行われる場合など、前回と同じ品質がサプライヤーで確保されているかどうかは、本来的には同じ確認を行わなければわかりません。初回納入時に確保されていた品質を、どのように維持しているかは、まず調達・購買部門で確認する需要があります。そのためには、サプライヤーで起こっている「変化」に、サプライヤー自身がどのように対応しているかを確認しなければなりません。何か問題が発生する前に、こういった確認ができるかどうかが、調達・購買部門が正しく機能しているかどうかのアピールにもつながるのです。
を、どのように維持しているかは、まず調達・購買部門で確認する需要があります。そのためには、サプライヤーで起こっている「変化」に、サプライヤー自身がどのように対応しているかを確認しなければなりません。何か問題が発生する前に、こういった確認ができるかどうかが、調達・購買部門が正しく機能しているかどうかを示することにもつながるのです。
(つづく)