緊急講義!サプライヤーの能力不足対策 1(牧野直哉)

各企業のトップによる年頭のあいさつで、好況の継続が多く語られました。調達・購買部門にとって世間一般の好況は「逆風が吹いている」状態です。好況でサプライヤーが忙しいときであっても、邪けんに扱われないような良好な関係を構築していれば良いのですが、そういった取り組みには多大な時間とコストを要し、すべてのサプライヤーで実現するのは極めて難しいのが実情です。

各企業の好調さによって、需要超過による供給能力不足の顕在化が懸念されます。すでに一部の業界では、2018年4月以降の購入に影響が出ています。多くの企業にとって新年度を前にした今のタイミングこそ、来年度のリスクを取り払う取り組みがとても大事です。

というのも、供給不足で問題になるのは、不足する事実が急に判明する、情報としてもたらされる点です。バイヤー企業側の取り組みだけでは、すべての突発的な不足には割けられません。そういった突発的な事態へ対処するためにも、事前の備えが重要なのは言うまでもありません。今回は、読んだ後すぐにアクションが起こせる内容で、サプライヤーの能力不足対策を乗り切る術をお伝えします。

●調達環境の理解

まず一般的な景気といった観点ではなく、市場における調達環境の確認を行います。今回のさまざまな報道によれば、なにか日本全体が景気浮揚して、サプライヤーが総じて忙しいといった印象を受けてしまいます。確かに人手不足の影響はそういった側面があります。しかし、景気の良しあしの実態は細分化して、サプライヤー個別にその影響が現れています。日本経済全般ではなく、自分たちが発注しているサプライヤーの状況を確認します。

・マクロな状況を理解する

ここで述べる「マクロ」とは、日本経済から少し踏み込んだ視点です。経営資源のうち、「人(ヒト)」と「モノ」について、データからサプライヤーの状況を判断します。

まず「人(ヒト)」です。建設業界や介護関連業務における人手不足は、これから全業種に波及しその影響が顕在化するはずです。しかし人手不足も地域によって、その状況は大きく異なります。日本銀行が発表しているさくらリポートと呼ばれる「地域経済報告」では、国内の各地域における有効求人倍率を掲載しています。最新版はちょうど1月15日に発表(https://www.boj.or.jp/research/brp/rer/data/rer180115.pdf )されました。


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2017年11月のデータでは、最も高い北陸地域と最も低い北海道では0.71も違っています。サプライヤーの所在地が北陸の場合と北海道の場合では、人手不足の切迫度合いに違いがあるかもしれません。少なくとも、新たな求人に対して採用できる確率は北海道の方が高いでしょう。北陸地域の場合は、人手不足が能力拡大の障害になる可能性が高いと判断できます。

・ミクロの理解

先ほどよりも少し細く、そして異なったメッシュでデータを参照します。有効求人倍率は、厚生労働省が発表する「職業安定業務統計」に含まれているデータです。ホームページを参照すると「職業別一般職業紹介状況」(http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11602000-Shokugyouanteikyoku-Koyouseisakuka/G35_72.pdf )が掲載されています。このデータは、先ほど地域ごとに見た有効求人倍率を職業ごとに分析しています。対象となるサプライヤーがどんな業種に該当するのかによって、業務の繁忙状況を確認できます。最新のデータ(2017年11月分)によると「建設躯体工事の職業」は、有効求人倍率が10倍を超えており、新規求人倍率は13倍を超えています。1人の働き手に対し、13件の働き口がある計算です。

 
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続いて、企業の設備の面から見たデータをご紹介します。経済産業省が発表する鉱工業指数に含まれる稼働率指数です。景気判断と一致する指数と言われています。ちょうど1月18日に昨年の11月分のデータが発表されました(http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/iip/result/pdf/press/b2010_201711nj.pdf )。

この指数は、製造業における生産能力と実際の設備稼働率とを比較した操業度です。景気の拡大局面では、出荷を伸ばすために工場の操業時間は増えますから、稼働率は上昇します。稼働率指数の表示方法は、基準年度を100として判断した数値が公表されます。現在の発表データは基準年度が平成22年です。データでは16の分類で稼働率を表示しています。

発表されたデータは、季節調整済指数として「102.0」です。製造業全体の平成28年の第3四半期からの推移を見ても、過去と比較して大きく伸びた結果とは言えない数値です。昨年の4月は104.1を示しており、8月にも103.4を記録しています。少なくともここ1カ月のマスコミ報道や、ヒアリングを行って入手した情報とは異なる結果です。

この指数の欠点として、どの指数にも言われることですが、基準年と現在比較したとき、産業構造の変化を反映できない点が指摘されています。リポートをご参照いただくと、稼働率の横には生産能力が記載されています。生産能力は明らかに長期で低落傾向が読んで取れます。

したがって、稼働率指数は同じ数値であっても、生産能力が減少しているので相対的に不足感が高まる傾向があるのではないか、といった想定を行っています。「先週と今週のニュース」でご紹介した「長期的な低下が続く企業の生産能力」記事にもある通り、今回の供給不足の懸念は、需要の拡大の側面もあるでしょう。しかしそれ以上に、供給能力の減退といった側面があるとの前提で、より詳細にサプライヤーの状況「生産キャパシティの増減」の観点で確認する必要があるのです。

(つづく)

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