連載「2019年から2038年まで何が起きるか」(坂口孝則)

*2019年から2038年まで日本で起きることを予想し、みなさまのビジネスに応用いただく連載です。

<2020年①>

「2020年自動運転車が走り出し、自動車産業は転換期を迎える」
自動運転はピークの象徴、ハードからサービス化の流れ

P・Politics(政治):経済産業省主導で推進されてきた自動運転の実用が開始される。高速道路、一般道路で、部分的な運転が自動化される自動車が走る。
E・Economy(経済):自動車保有台数の飽和が世界各地で起きはじめ、自動車各社はサービス事業を本格化する。カーシェアリング事業者の増加。
S・Society(社会):自動車を保有する文化から、都度利用意識が高まる。自動車のデザインはさほど意識しなくなる。また自動車メーカーのブランドから、サービス業者のブランドが重要となる。
T・Technology(技術):自動運転技術の発展、センサー技術、スマートフォンと連携したマッチング技術の進化。

・自動車の誕生とピーク
1880年代のドイツでカール・ベンツと、ゴットリープ・ダイムラーが現代の原型となる自動車を設計し試作した。いわゆる四輪自動車として誕生したのは1885年で、そこから130年が経った。ドイツではなく、流行は富裕層のフランス人らが発祥で、フランスの商社がそれを広めた。フランスには馬車製造のサプライヤが点在しており、自動車産業の勃興を支えた。

それから数年遅れ、とはいえほぼ同時期に、アメリカでも自動車の開発が進められていた。オバマ大統領も「自動車を発明した国は、自動車(産業)を見捨てることはできない。」と誤認するほどだった。アメリカでは莫大な国土を移動する手段として自動車需要が劇的に盛り上がり、社会の形や生活様式もクルマを中心としたものになった。作家のジョン・キーツはアメリカ人がクルマなしにはいられない状態を自動車と恋に落ち結婚したと表現した(『くたばれ自動車』1965年)。

その結婚生活はさまざまな子どもを生み出した。1908年にはフォードがT型フォードを販売開始し、ベルトコンベアーによる大量生産方式の確立、低価格販売と割賦販売方式の採用によって急拡大をとげた。この過程で、作業者の作業を細分化したり、効率を追求したり、といった現代では当然の管理手法が開発された。1920年代には馬車製造会社の社長だったウィリアム・デュラントの設立したゼネラル・モーターズが自動車製造でも台頭し、その後、クライスラーとともにアメリカの自動車黄金時代を作っていく。

その後、自動車産業は日本にも伝播し、トヨタ、日産、ホンダといった現代の大企業を産んだ。1950年代にトヨタはフォードを見習い独自の生産システムを構築し低価格・高品質の製品をつくりあげ、さらにホンダは1970年代に当時もっとも厳しい規制だった環境基準マスキー法をクリアするエンジンを開発し、環境にも配慮した製品で躍進の礎をつくった。

米国メーカー側も紆余曲折ありながらグローバルに展開し、そして、多くの参入企業が登場しながら、自動車は最大の産業に成長した。自動車は無数の部品を要する製品であり、産業の広がりからも注目された。現在では国内で、自動車関連企業で550万人が働いており、総労働者数の110%弱にもいたる。さらに出荷額では製造業の2割をしめる。

最初の自動車は時速が16kmしか出なかった。20世紀初頭、走るたびに故障していた自動車は、ときに歌になっていた。それが2020年、自動運転車までが投入されることになった。この自動運転は、今後の命運を握る切り札として期待されている。世界で自動車市場が拡大するなか、この自動運転を巡って、自動車発明以来の技術革新として各社がしのぎを削っている。自動運転技術をおさえれば、さまざまな応用が効くだけではなく、技術がデファクトスタンダードとなれば世界を覇権しうるからだ。

この自動運転は自動車産業における一つのピークの象徴であり、また、ここからゆるやかに衰退を迎える。

・日本自動車業界の焦燥感
日本国内では若者のクルマ離れが叫ばれている。また、高齢ドライバーの事故が社会的に問題としてとりあげられる機会も多くなり、一部では、免許の自主返納を勧める声もある。かつて「いつかはクラウン」といわれ、所得の増加とともにハイクラスを所有する象徴だった自動車だが、もはや「いつかはレクサス」とはいわず、むしろ「いつかはハイスペックスマホ」のほうがしっくりくる。

かつて自動車産業では「人口1億人現地生産説」があった。これは人口が1億人を突破した国では、自動車関連の部品がすべて調達できるようになる意味だ。米国、中国、インド、そして統合したヨーロッパ。日本は米国に次ぐ自動車国として栄華を誇ってきた。ただ、1990年から約20年の推移を見ても、国内向けの販売は765万台から500万台ていどへと激減している。

国内販売の低迷にくわえ、外貨を稼ぐ手段だった輸出は低迷している。もちろん海外生産は拡大しているものの、その海外では競争が激しい。テスラ・モーターズなど新興勢力の拡大、グーグルなどIT企業をはじめとした異分野からの攻勢に、日本の自動車メーカーは強い危機感をいだいている。

自動車を自動車ととらえず、モビリティーを実現するもの、とシンプルに考えればガソリンエンジンのような熟練を必要としない電気モーター駆動でいいし、GPSとAIを使った運転支援もできる(純正カーナビにくらべると、Google MAPはなんと使いやすいことだろう!)。海外勢が一気に業界を塗り替えるかもしれない。とくに自動運転は、宅配や、買い物難民支援にも使えるし、災害時の物資配送、工場内の資材搬送にも活用できるだろう。この闘いに負けると自動車産業、ならびに、傘の下の企業群も大きな影響を受ける。

・自動運転のレベル
自動運転といっても、いくつかのレベルがある。定義は、国や企業によって微妙に異なるが、ここでは経済産業省の定義を採用する。

レベル1:運転支援 o システムが前後・左右のいずれかの車両制御に係る運転タスクのサブタスクを実施
レベル2:部分運転自動化 o システムが前後・左右の両方の車両制御に係る運転タスクのサブタスクを実施
レベル3:条件付運転自動化oシステムが全ての運転タスクを実施o システムの介入要求等に対して、予備対応時利用者は、適切に応答することを期待
レベル4:高度運転自動化o システムが全ての運転タスクを実施o 予備対応時において、利用者が応答することは期待されない

ここで経済産業省がターゲットとしているのが東京オリンピックにあわせた、2020年だ。「高速道路においては、2020年までに、運転者が安全運転に係る監視を行い、いつでも運転操作が行えることを前提に、加減速や車線変更が可能なレベル2を実現」としており、「一般道路においては、2020年頃に国道・主な地方道において、直進運転のレベル2を実現」としている。

私は前述で、自動車をこれまでの概念ではなく、モビリティーを実現するものと書いた。たしかに、レベル3以上のものは、これまでと同じ自動車といえるものだろうか。象徴的なのがフォルクスワーゲンで、モビリティーサービスの会社をIBMと設立する。ハードから配車や配送にも力をいれはじめる。しかも印象的なのが設立時のコメントだ。「将来、すべての人が車を所有する時代ではなくなるかもしれない」( https://response.jp/article/2016/12/06/286533.html )。

<つづく>

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