連載「調達・購買戦略入門」(坂口孝則)
25回にわたる連載です。調達・購買戦略の肝要を順に説明しています。
・個別原価分析
この項目の続きです。
サプライヤの原価を確認する際に、工場を見に行くケースも多いはずです。この際に、何を見れば良いのでしょうか。先ほど原価といいましたが、原価率を考慮する時には、そもそもそれがいくらで販売されているかを知る必要があります。
当たり前なのですが、仮にコストが100円だったとしても、それを200円で販売することができていれば、かなり優秀な工場なわけです。しかしコストが100円の製品を、110円でしか販売することができていなければ、それはかなり厳しい状態になるといっていいでしょう。つまりそのコスト100円に問題があったとしても、高く販売できていれば、皮肉なことにその工場は優れていると評価することができます。つまりは生産性の問題です。
そこで、そもそもその工場が良いのか悪いのかを確認する際に、先ほど申し上げた付加価値の大小に注目せざるを得ません。調達・購買部門として視察する云々の前に、その工場が価値を生んでいるかを見るわけです。そこで、付加価値を見るさまざまな方法がありますが、私がお勧めするのは下の計算式です。
ここでは、売上高から材料費と外注費を引き算しています。正確にはサプライヤの調達費も引き算する必要があります。しかし、ここでは細かな説明は抜きに、変動費相当分を引き算すると覚えてください。すなわち売上から変動費を引くということは、外部に流れるコストを引いて、自社が作り上げた価値を計算することです(もちろん、これを付加価値というのですが)。
そして、それを割り算するのですが、可能であれば従業員の総労働時間をヒアリングして、それで割り算をしてください。しかし、実際には外部の企業であるあなたに、サプライヤが自社工場の従業員総労働時間を教えるのは難しいかもしれません。その際には従業員の数で割っていただければ良いでしょう。
総労働時間で割ることができれば、一般的に3,500円/時間以下は、低付加価値工場です。ただし、業界にもよるため、複数社を比較するほうがふさわしいでしょう。
・調達観点の工場視察
さて、調達の観点から見たときの、工場視察の肝要点を下にあげています。
まず「生産能力が過剰で、さらに仕事がなければ、段取り替えを早めても遅くても同経費」と書いています。考えてみれば当たり前ですが、従業員はすなわち固定費です。したがって、たとえば作業を数秒間ほど短くしても、あるいは、段取りを相当に早くしたとしても、結局はその空いた時間に付加価値業務に従業できるかが問題です。
したがって、もし、固定費を削減することが出来なければ、あまり固定費については考える必要がありません。あえていうと、ロットサイズを小さくすることによって工場全体の稼働時間を減らすことができるかもしれません。そうすれば従業員が早く帰られるわけです。あるいは従業員総数が変わります。あるいは工場のシフト数が変わります。そこまですれば、固定費の削減ができるかもしれません。
加えて「投資してしまった金額は戻ってこないので、改善の際には考えない」と書いています。原価の言葉でいうと、これは「サンクコスト」と呼ばれるものです。「サンクコスト」とはさらに言葉を替えれば、「埋没原価」ともいいます。文字通り、埋まってしまった費用です。使われる喩えとして、映画の入場料金があります。映画の入場料金「大人1800円」は払った瞬間に戻ってこないものです。とすれば、それ以降は、後悔してもどうしようもありません。問題なのは、映画が面白くないとわかった瞬間に、あなたがとる行動だけです。入場料は返ってこないのですから、つまらないと思ったらすぐさま映画を出て行って、そして新たな仕事をした方がいいでしょう。
これは設備投資も同じです。設備投資は、払い終わった金額ですから、これを後悔しても仕方がないわけです。むしろ、改善の際には考えることなく、あくまでも将来を考え、何をすべきかを検討しましょう。これはよくある話で、「何億円を投資してしまったので、なかなか撤退できない」といった誤った判断は、民間でも公共の場でもあります。
さらに「改善の内容が、なんらかの取引内容に反映されるかを意識しておく」と書いています。これは茶番を避けるため、当然のことです。工場見学に行って指摘したり、あるいは作業改善したりしていただいたとしても、それを見積書として反映することを私たちは期待しているはずです。したがって、極論をいえば、見積書としてコストの下がらない改善というのは我々にとってあまり意味がありません。
もちろんサプライヤのコスト体質が強化されるので、中長期的には我々にもメリットがある、といった言い方はできなくもありません。しかしながらそう流暢なこともいっていられないはずですし、何よりも、こちらと一緒に改善したのだからサプライヤにもコストで協力をいただきたいものです。したがって、工場見学の前提で、見積詳細を入手しておきましょう。
基本姿勢は次の通りです。
一番と二番目の内容は重複していますが、三番目に書いてある「多く作りすぎてないか、早く作りすぎてもいないかを見る」は重要です。これは若い調達担当者にとっても明確な見方だと思います。
すなわち、各工程に行ったり、あるいは倉庫に行ったりして、「客先から要求された個数と、生産した個数が同じかどうか」を聞くわけです。そして、その次に、出荷の条件を聞き出してください。相当先のものまで作っていたり、あるいは出荷予定のないものを作ってしまったり……。そういった場合は改善の余地があるわけです。
次に書いている通り「機械と手が製品に触る以外の時間がないかを確認」です。倉庫におきっぱなしになっているということは、その製品がずっと放置されていることですが、その時間はムダに他なりません。私の好きな言葉に、「工場というところでは、見えない固定費の雨が降っている」があります。雨(固定費=コスト)に濡れれば濡れるほど、その製品はコスト高になってしまうのです。
もちろん、「作り終わった製品だから、なんら固定費がかかっていないではないか」と反論する人もいるでしょう。しかし、それを保管しておくスペースは、土地代として重くのしかかっているはずです。
さらに「当てるのではなく、合わせている作業者がいないか確認」です。表現が難しいかもしれません。たとえば何らかの製品を作業するときに、穴あけをしたり、削ったり、その他の加工を施したりするケースがあります。製品の位置決めをする時に、何らかの治検具などに「当てて」いれば大丈夫です。しかしながら、「合わせ」ているというのは、それだけ時間もかかりますし作業が非効率です。さらに品質も安定しません。何らかの作業する時には「当てて」いるのではなく、「合わせ」ている作業者がいないかどうかを確認しておいてください。
<つづく>