サプライヤ分析 1(牧野直哉)
今回から「サプライヤ分析」を始めます。従来のサプライヤ分析とは、サプライヤのもつリソースにスポットを当て、QCD+αのメッシュで分析していました。今回から述べるサプライヤ分析でも、サプライヤのQCDの分析が含まれます。しかし大きく8つに分類される分析内容の1構成要素にすぎません。
まず、サプライヤ分析の定義を行います。
「現在購入している、あるいは将来モノやサービスを購入する可能性の高いサプライヤの、置かれた経営環境、企業全体、リソース、およびモノやサービスの情報を収集し分析すること」
この定義にもとづいて、話を進めてゆきます。先に述べたQCD+αの部分は、サプライヤのもつリソースと、周辺情報にすぎません。QCD+αも重要な情報ですが、それだけでは最適な発注先を選定し続けるためには不十分です。では、今回述べるサプライヤ分析がなぜ必要なのでしょうか。
仮にあるサプライヤをA社とします。積極果敢な経営者によって設備投資も継続的に行われ、企業運営は順調、売上げも増加傾向にあります。若年層の定着率も高く、事業ノウハウの継承もうまくいっている様子が、日常的な対応からもうかがえます。購入価格は、同業種のサプライヤとほぼ同じレベルです。これまでの調達戦略のセオリーからすれば、取引を開始したいと思うバイヤが多いのではないでしょうか。しかし、それは発注企業側/バイヤの側視点による、一般論による判断です。上記のような一般的に魅力的なサプライヤを選び出すのであれば、バイヤが業務で生み出す付加価値は、残念ながら少ないと判断せざるをえません。
もちろん、前段で述べたA社がベストなサプライヤなケースも当然あるでしょう。しかし発注側の発注する内容や、購入したモノやサービスの使用先との「バランス」はどうでしょうか。現在成長しているサプライヤであれば、どのような発注を望むでしょうか。これからのサプライヤ選定には、発注側と受注側の双方がハッピーになるビジネスができるかどうかの視点が、実務的にも企業業績的にも極めて重要です。ここでA社と同じ業種のB社を登場させます。
B社は、50代前半の経営者によって、堅実な経営が行われている。近年、大きな設備投資をおこなった話は聞かないが、長年使いこまれた設備の5S管理は高いレベルで維持されている。ここ数年の業績は横ばいで、経営者並びに従業員の平均年齢をみても、10年後には継続が危うくなるかもしれない。せっかく良いノウハウを持っているのに、少しもったいない。
皆さんはA社、B社から1社を選ぶとき、どちらを選びますか。これまでの情報でA社を選択した方は、残念ですが一般論でサプライヤを選択しています。ここで、発注する自社=バイヤ企業の発注内容と、サプライヤから購入してバイヤ企業が販売するモノやサービスを合わせて考えてみます。
【ケース1】
A社もしくはB社からの購入は、自社の戦略的製品の一部を構成する。今後も市場規模の拡大が予想され、自社でも新製品の開発と、現行製品の改善が同時進行している。
【ケース2】
A社もしくはB社からの購入は、これまで長年にわたって購入してきた製品であり、新製品も長らく発売されていない。将来的な市場規模は縮小の方向性が示されている。今後、これまで販売してきた製品のメンテナンスをどのように取り込むかが営業的な課題であり、事業戦略の見直し迫られている。
ケース1,2とも、B社から購入しているなかで、A社の存在が明らかになりました。発注先をA社へと見直すのか。それともB社のままで状況を注視するのか。サプライヤの状態だけではなく、市場環境と、発注企業の将来見通しがなければ、本当にフィットするサプライヤ選定はできません。これに、発注内容が加わってきます。サプライヤの現状に加えて、
1.市場環境(成長するかしないか)
2.発注企業の将来見通し(事業/販売戦略)
3.発注内容
例えば、ケース2は一般的には将来的な拡大が見込めないビジネスをイメージしています。しかし、過去からの累積で市場に出回っている製品のメンテナンスにA,B社からの購入品が必要であれば、またA社かB社かの選択に影響を与えます。
従来のサプライヤ評価は、サプライヤのQCDのみをバイヤ企業視点で評価する取り組みに特化していました。今回の連載で述べる内容は、これまでのサプライヤ選定でも意識せずに潜在的には行われていたはずです。しかしこれからは潜在的ではなく、明確な根拠をもって、企業戦略にフィットするサプライヤ選定が必要です。企業戦略にフィットするサプライヤ選定とは、まさに調達・購買戦略そのものです。本連載のサプライヤ分析は、調達・購買部門に独善的な一般論によるサプライヤ選定ではなく、事業戦略にフィットするサプライヤ選定をおこなうための検討材料になります。
これまでに述べた検討材料に加えて、次のような3つのポイントの分析を加えます。
(1)サプライヤとの力関係
サプライヤが売りたがっているのか、それともバイヤ企業が買いたがっているのかを判断します。サプライヤからの購入条件を決める交渉でも、この部分の正しい理解がないと正しく結論を導けません。また、バイヤ企業が劣勢である場合、どうしたら力関係のばんかいできるかを考える基点になります。
(2)サプライヤポートフォリオ
ポートフォリオには、金融用語の一覧表や分散投資を行う際の選択といった意味があります。ここでは複数のサプライヤをいくつかの軸で評価し、相対的なポジションや優劣を判断します。例えばコストと品質管理レベルの2軸で評価する場合に、価格は安いけど、品質確保にはバイヤ企業の厚いサポートが必要なサプライヤと、相対的に価格は高いものの、バイヤ企業の品詞への関与はない、もしくは極めて限定されるといった分析があるとしますね。もちろん、低価格で品質もピカイチのサプライヤがいれば良いのですが、そんなうまい話ばかりではありません。こういった状況下で、バイヤ企業の事業戦略が、低価格を武器に市場で戦っていくのであれば、調達・購買部門は前者のサプライヤを採用する可能性が高まります。もちろん総コスト評価で、購入価格は高いけど、ライフサイクル全体では後者が安い場合もあるでしょう。ここでは同業種のサプライヤの違いを明確にします。
(3)コスト分析
コスト分析の最終目標は、バイヤ自ら購入する内容に対して見積の作成です。サプライヤから提示される見積金額を待ってから動くのではなく、より商談の初期段階から動くためにも、サプライヤへ見積依頼をおこなう段階で「だいたいこの程度」といった目安を持っているバイヤは多いでしょう。そういった目安に根拠を与え、目安を常に最新最良の状態を保つ方法論です。
またバイヤ企業内で、購入コストに実現できない目標が割り振られ、途方に暮れた経験はありませんか?調達・購買部門が、予算設定時にサプライヤの見積がない状態でも、実現可能性のあるターゲットの設定に貢献するためにも必要です。加えて、サプライヤのコスト競争力を計るためにも不可欠になります。
こういった内容を踏まえたサプライヤ分析をおこなってゆきます。次回は、具体的な分析手順をお伝えします。
<つづく>