ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

値上げ対応 7

前回は、サプライヤーからの提示される典型的な値上げ要請文書を例に、その対応策をお伝えしました。サプライヤーが値上げを申し入れてくる文書は、そのままでは妥当性を検討できる内容ではないケースがほとんどです。これは、値上げ幅の妥当性を売り手が明らかにするのは、販売製品のコスト構造の一端を明らかにする意味を持ちます。セールスパーソンの本能として、コスト情報を買い手であるバイヤーには渡したくないのです。

ここで考慮すべき重要なポイントが二つあります。

ひとつ目は、前回のような文書をサプライヤーへ送ったとしても、バイヤーとして期待するような回答が得られない事態です。値上げを要求したサプライヤーへの基本的な姿勢は、値上げ受入には欠かせない妥当性判断の資料なので回答をお願いします。しかし、サプライヤーのセールスパーソンは回答に窮するはずです。原材料の市況は変動し、上昇局面もあれば下落局面もあります。状況が変われば、値上げの妥当性を判断するデータは、将来的な価格決定にマイナスの影響を与える可能性も高いのです。

ここでのポイントは、要求した値上げ幅の妥当性を検証するためのデータの提示が円滑に行なわれない場合です。そのまま値上げ要求を取り下げるのか、それとも半ば強引に値上げ受入を要求するか。この2つは、値上げ要求を行なったサプライヤーとのリレーションの状態によって決定されます。マスコミ報道に登場する、原材料費が上昇しても価格転嫁できない状況になるのかどうか。この見極めは、値上げ対応をおこなう上で重要なポイントです。

前回、値上げの妥当性を検証するデータの提示をサプライヤーに求めましたが、サプライヤーから具体的に提示された状況も想定して、バイヤー企業でもどの程度の値上げであれば妥当性があるのかを独自に検証しなければなりません。バイヤー企業での検証と、サプライヤーからのデータ提示をクロスチェックして、より妥当性を高めた数値の算出にも繋がるのです。

もう一つは、具体的なデータの提示がサプライヤーからおこなわれた場合です。こうなると、額は別にして値上げの回避は困難と認識しなければなりません。まさにバイヤーとして提示されたデータの妥当性を判断しなければならないのです。判断する為にバイヤー自らデータを収集しなければなりません。

●バイヤーの欲しいデータは存在するか

それでは、これまで述べてきた「妥当性」とはどのように検証するのでしょうか。そして、バイヤーが妥当と判断可能なデータとは、世の中に存在するのでしょうか。残念ながら、サプライヤーから購入する製品に対応した都合の良いデータは、一般的に存在しません。では、どのように値上げ幅妥当性の検証をおこなうのでしょうか。

1. 過去からの経緯を確認する

<クリックすると別画面で表示されます>

上のグラフは、日本銀行のホームページにある物価関連のデータベースから入手した鋼材の価格推移です。2005年を100とした時の指数表示で価格の推移が表示されています。約8年間の推移の中で、大きく3つの注目すべき外部環境要因を読み取れます。

(1) 2008年リーマンショックまでの価格上昇及び、供給逼迫局面
(2) 2008年リーマンショックに端を発した価格下落局面
(3) 2011年東日本大震災による供給逼迫

これら3つの外部環境の短期間の大きな変化の際に、購入価格はどのように推移したのか。これは前提条件として必ず確認しなければなりません。同時に、値上げ要求を受けた現行価格決定のタイミングがどの時期だったのか。例えば、そんなケースは稀だと思いますが、リーマンショック発生前夜と現在の比較では、20%以上現在の価格は安価です。東日本大震災の後の価格上昇局面の頃と比較しても、15%程度安くなります。今、購入している価格がどのようなタイミングで決定したのかは、値上げ幅だけでなく、値上げそのものが妥当なのかどうかを判断するとても重要なデータです。これは、バイヤー側でも調査できるはずです。

2. サプライヤーとの間に起こった出来事の再確認

また、購入は価格だけでなく様々な条件設定の結果実現します。過去の売買取引の過程で、いろいろなやり取りをサプライヤーとの間で行なっているはずです。近年では、サプライヤーの営業パーソンとのやり取りもメールによって行なわれています。例えば、値上げを要求したサプライヤーとの過去のやり取りの経緯をできる限りさかのぼって確認してみます。

値上げ幅の妥当性を確認するデータは、そもそもサプライヤー側から出したがらないと述べました。しかし、過去の経緯の中で、値上げの妥当性を確認できるデータの一部が確認できる場合があります。過去に発生した品質や納期のトラブルで、バイヤーとして原因究明と改善に関わっていれば、様々なサプライヤーの情報が入手できているはずです。

例えば、過去に何らかの不具合が発生した例を考えてみます。原因検証の過程で、具体的にどの部分に問題があって、施した対策まで掌握していれば、構造の理解に繋がります。また、納期遅れで、サプライヤーの購入品が原因の場合、発生原因を究明して、改善策を施すためには、不具合発生前までにどのように購入していたかを明らかにしなければなりません。様々なトラブルは、バイヤーとしても怒って欲しくはありません。しかし、起こってしまったのであれば、再発防止に取り組みます。技術的、あるいは品質管理面で、技術的に高度な問題で、バイヤーとしては荷が重いケースも想定されますが、そのようなタイミングで学べる事実も多いのです。

<つづく>

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