これからの調達を考える(坂口孝則)

*2016年11月24日講演速記録

「これからの調達業務を考える」ということでお話をさせていただきます。とはいっても、これから話をすることは完全に新しいものではありません。これまで言われてきたことの繰り返しも含みますし、整理しなおした側面もあります。

ただ結論だけ申しますと、これからの調達業務は現場屋と金融屋に分かれるのではないかということです。現場屋と金融屋に分かれる。

そして、その専門性をより高めたところに次のステージがあるのではないか。これが本論の結論です。そして、これまではその2つの切り分けが曖昧でさらに教育も徹底されていませんでした。中途半端だったわけです。そこに対してより専門的な教育をしなければいけないんじゃないかと考えています。

ところで、皆さんが混乱なさっているかもしれません。私は調達業務が2つに分かれると言いました。現場屋と金融屋とは何のことでしょうか?

現場屋というは文字通り現場レベルでの改善を担う仕事です。

サプライヤ育成、あるいはサプライヤ改善指導といってもいいですし、現場に根づいたり、あるいは地場の産業を育成したりするものです。食品の世界で最近キーワードとなっているのが「頭で食べる時代なった」ということです。地産地消という言葉がありますが、あれは各国であるいは各都市で食するものはそこで栽培した食材を使おうという動きです。

正直、味だけで、それがどこ産とわかる人はほとんどいないでしょう。だからこそ、食事はこれから「頭で食べる時代」になったわけです。地産地消という記号を消費するようになった、といっても良いでしょう。

まず現場や与えられた条件の中から、地場サプライヤの工程改善やあるいは強い工程づくりに奔走します。あるいは、新工法などから次世代のものづくりを生み、一歩進んだ強さを実現するわけです。

それに対して金融屋とは何でしょうか? グローバルサプライチェーンなど、より高次な概念を考えるのが金融屋です。お聞きの方は、高次だから素晴らしいんだ、低次だったらダメなんだという差別意識をもっているひとはいないと信じます。どちらがよいというわけではなく、仕事の分担です。

金融屋は構成部品に至るまで、グローバルサプライチェーンを考えたり、あるいは為替に強い調達構造づくりを志向したりします。あるいは細かなリスク計算からマルチソース化やマルチファブ化などを検討したり、あるいはTPP やその他のFTAなどの2国間経済合意を把握することによって、自社の調達における大きな枠組み作りをすることです。

金融屋とはもちろん比喩に過ぎません。金融屋とはどちらかというと現場空間ではなく、情報空間を仕事として取り扱うために意図的に「金融屋」という言い方をしているだけです。

ただし、この金融屋と現場屋が混じり合う、あるいは分けて仕事することに重要な意味があるのだと私は思います。私は構成部品に至るまでグローバルサプライチェーンの最適化を模索しろと言いました。これはすなわち、完成品をどこから調達してくるかという議論はもう古くなっているのではないかということです。

考えてみるにそれはあくまでも完成品としてのベストを示すに過ぎません。しかし、そこに調達部員が介入していって構成部品に至るまで、どこから調達した方が良いかを細かく決めるのです。そこにはもちろん各パーツの貿易現状も把握せねばなりません。関税の問題もあるでしょう。ロジスティックスの問題もある。

そこはやはり金融屋という大きな枠組みを描く人がいて、そこから最適解が求められると思うわけです。もちろん短期的な為替レートを読むことは不可能です。しかし、中長期的には購買力平価を使ったり、あるいは身近なところであっても為替予約などを活用することによって、いかに全社的なリスクヘッジを図っていくかこれが求められてきます。

または、調達購買業務のインテリジェンス化と言ってもいいでしょうが、例えば各国の政治状況を把握して、そこから全社展開を行っていくのも必要です。また、BCPを磨いて災害に強い現場づくりを行うのは現場屋であるにしても、例えばその発生リスクのパーセンテージはどれくらいで、それをリスクヘッジすることによるメリットはどれぐらいなのかを考える必要がある。したがって、そこは金融屋の仕事になるのではないかと思うわけです。

ここで突然ですが、具体的な教育の話をします。現場屋と金融屋はジョブローテーションでまわすのがふさわしいでしょうが、かなり専門的でもある。そこで参考文献を紹介します。

<現場屋のための5冊>
●高専の教科書「電気・電子」編(どれでも)
●高専の教科書「機械」編(どれでも)
工場マネジャー実務ハンドブック
●中小企業診断士テキスト「運営管理」(どれでも)
●中小企業診断士テキスト「中小企業経営・中小企業政策」(どれでも)

<金融屋のための5冊>
為替リスク管理の教科書
2016年版 ものづくり白書
ゼミナール ゲーム理論入門
●企業価値評価 第6版[][]
高田直芳の実践会計講座 戦略ファイナンス

どれも歯ごたえのある書籍ばかりです。とくに私は、本気で高専の教科書が使えると思っており、調達・購買の現場担当者は、これら電気と機械の教科書を一通り読んでおいたほうがよいのではないでしょうか? それくらい、技術教育といわれるなか、最低の基準を示しておきたいと思っています。

金融屋というもの、そして現場屋というもの。繰り返すと、どちらが良いとか悪いとかはありません。ただ、専門的な二つの領域を明示化したいと思い、まずは議論のきっかけとして述べました。あとは、みなさんからの議論を望みます(拍手)。

<了>

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