The対談 1~日本製品が高品質は本当か?(ほんとうの調達・購買・資材理論事務局)
●マクドナルド問題のとらえ方
坂口:「日本製品が高品質は本当か?」なんですけど、これで思い出すのは、マクドナルドの賞味期限切れ食肉問題なんです。以前日テレの「スッキリ」に出たときに、期限の切れた肉や、一度工場の床に落ちた肉を拾って機械に入れるだとか、杜撰な衛生管理の動画が放送されたんですよ。スタジオに戻ってコメントを求められたので、僕は「中国というところはパートナーであるからして、それで批判するのではなく、改善を申し入れるぐらいの姿勢が必要である」という話をしたんですね。すると、テリー伊藤さんから、「だから駄目だ」と怒られたんです(笑)。「我々は、中国からの輸入をゼロにするぐらいの覚悟っていうか、気概がないとなめられるんだ」みたいな話をなさったんですね。俺は、「そんなことはないと思いますけどね」とささやかにコメントはしたんだけれども、ネットの反応は「テリーは久々にいいことを言った。(笑)」で、「コメンテーターのあいつは、なんだ、馬鹿野郎」みたいな反応が多々ありまして……」
牧野:非常に辛辣なコメントというか、ネットでは坂口さんのコメントが叩かれていましたよね(笑)
坂口:その後に調達の人たちと話したら、どちらかというと、僕と話すからっていうのもあると思うんですけど、9対1で僕の意見に賛成の人が多かったんですよ。中国の最近の品質向上って、すごく向上している。一般視聴者は日本対中国って対立構造で思ってしまうけど、実際の現場では、いがみ合っているわけでもない。実際、中国からのパーツとか、食品がなくなったら、日本はやっていけなくなる。中国もそうなわけで、そこは、相互関係で改善すべきだと。
食品の通関の統計を見ると、中国から来た食品っていうのは、約0.2%が弾(はじ)かれているんですね。これはもう不適合品というか、規格外品だということで、「駄目だ」って返されてるんだけども、タイからの輸入食品って、0.7%も駄目って弾(はじ)かれて、かつ、アメリカからの輸入品は0.8%弾(はじ)かれているんです。明らかに先進国の中では、中国って優秀な国なわけですよ。
だからと言って、マクドナルドが許されるかというと、許されないと思うんです。じゃあ、「他人の振り見て我が振りをなおす」日本人としたらどうすればいいか。日本の食品って残留農薬が問題としては大きいわけで、必ずしも日本の食品がOKかというとそうじゃない。かつ、2013年のときに起きた食品偽装問題とかって、基本的には日本人がやってるわけですから、中国だけを取り上げて「やっぱりあいつらが悪いんだ」っていうのは、ちょっと筋としては違うのかなと思いますけどね。
●国名を主語にした品質論の問題点
牧野:「日本製品が高品質か」といえば、日本が確かに高品質な部分もあると思うんですね。ただ、日本とか、中国とか、そういう国を主語にして、日本が高品質である、中国が品質が悪いということをいうのは、もういい加減やめるべきであると。
坂口:実際、最近日本の高品質が疑われるときってあります?
牧野:最近の事例でいうと、新幹線の事故()とか、もう1年半ぐらい前になるのかなあ、高速道路で天井が落っこちたことが……
坂口:ありましたねえ。
牧野:日本の…新幹線とか高速道路はインフラですね。ずっと高品質だったのかもしれないけど、経年劣化によって、品質が落ちることもあるし、高速道路の例は、経年劣化にともなうメンテナンスができてなかったわけじゃないですか。最近起こった新幹線の事故に関しても、山陽新幹線は、明らかに作業ミスだと思うんですよね。東北新幹線はちょっと分からないですけど。
坂口:分からないですけどね。確かに。
牧野:品質を作りこむのは人ですよね。日本の、現時点での人の品質レベルと高いと思います。でも例えば、世界でも日本のiPhoneのシェアって高いですけど、あれは中国製じゃないですか。フォックスコン製。台湾企業ですけど生産は中国ですよね。iPhoneを「中国製だから品質が悪い」っていう人って、多分いないですよね。品質が良くてユーザーから受け入れられれば、国なんて関係ない。だから、「韓国製だから悪い」とか、「中国製だから悪い」のではなくて、やっぱり個別に、企業ごとにみるということが必要だと思うんですよ。あと日本製だから、もうまったく全幅の信頼をもって迎えるっていうのは、ちょっと危険ではないかなと。
坂口:日本にも200万社の会社がありますものね。さっきの話の中で、僕が面白いなと思ったのが、日本人だから絶対の信頼を置くのはおかしいというところ。
●品質論の本質
坂口:要するに、広い意味での企業品質だと考えると、その品質の大きな2つというのは、品質基準やルールを作る。もう1つが、そのルールをきちんと遵守する。この2つに集約されると思うんですよね。
だから、調達・購買の現場でも、サプライヤにルールがそもそもあるのか、あったときに守っているのかを確認すればいいんじゃないかなと思うんですね。あんまり中国とか韓国、日本とかで切り分けないほうがいいって話のあとでなんですけど、日本人のすごさって、その2つをちゃんとやっていることでしょう。もしルールがあっても、ちょっと手抜きをやるってことがあったら、もう品質が守れないということなんですよ。
牧野:そうですね。私は、根拠なく日本は品質がよくて、中国や韓国は悪いっていう言いかたには違和感があるんです。ただし、品質を維持する能力、一定に保つ能力、決められたルールや手順を守る能力は、日本が秀でているかもしれないですね。
坂口:なるほどね。ルールを作る、守る、そして維持する。
牧野:継続や維持は、やっぱり日本と、例えば、中国、韓国っていうのはすごく大きな差がある。それはちなみに中国、韓国だけではなくて、例えばヨーロッパの例えばイタリアとか、アメリカのそれこそメーカーと比べても、継続と維持の部分は、日本は優秀だと思いますね。
●それくらい、良いんじゃない?
坂口:それでは、実例でいきたいと思うんですけども、この10年間という広いレンジの中で海外メーカーからずっと不良品が入ってきたって例ってどのくらいあります?
牧野:いやあ、すげえたくさんありますよ。(笑)
坂口:例えば代表的なやつでいうと?例えば、機械加工品でいきましょうか。機械加工品でどういうやつを想像すればいいですか?
牧野:まあ、単純にネジとか。
坂口:じゃあ、ネジにしましょうか。ネジの何が駄目なんですか。何が基準値と違うっていう見なされかたをするんですか?
牧野:私の買ってるものの中では切削加工で製造されるネジがあるんですけど、日本メーカーは、削りカスなんかまったくついてないんです。ただし中国とか韓国、ヨーロッパからも買うんですけど、ついてるものもありますね。
坂口:ということは、その例だけであえていうと、削りカスがついているのが不良と見なされたということですか。ちなみにその切削加工のあとの削りカスを飛ばす工程って、僕は想像できませんけど、あれってエアブローで飛ばすんですか?
牧野:エアブローで飛ばして、更に液体で洗浄する場合もあります。ただ、洗浄液の中にカスが入っていたりすると、洗っても洗っても残っちゃうんですね。日本人の素晴らしいところは、削りカスを認めないところ。海外では、多少ついてても大丈夫でしょう(笑)っていうのもあるわけですよ。
●それくらい良いんじゃない、の解決策
坂口:なるほど。まだ見えてこないのは、そのケースは、洗浄液の交換頻度の規定では答えにならないんですか?
牧野:交換頻度を規定したりとか、洗浄槽の深さを規定したりとか、いろんな対処方法はあるんですね。でも、そこまでの深い、トライアンドエラーの繰り返しで得たノウハウの存在が、大きく日本と中国、韓国とは違うところ。あと、「多少、カスついいていても大丈夫でしょう?」って思ったら、工夫もしないしね。
坂口:そのケースでいうと、例えば仕様条件に「削りカスなきこと」って追加すると解決はしないんですか?
牧野:解決する場合もあります。事前にそういった条件や、除去方法に関するノウハウを伝える場合もありますよ。でも、我々から言ってもやらない場合がありますよね。例えば、売り上げの7割8割とか、すごく大きなボリュームをもって発注をしているバイヤー企業であれば、言うことは聞くかもしれませんね。ボリュームが少ないと「いや、他のお客さんはそんなこと言わないからできない」って言われます。
坂口:でも、要するにそのケースでいうと、仕様書上「削りカスなきこと」ということを謳っていないと。かつ限度見本も見せていないという場合は、それは不良品というよりかは、彼らからすると通常品で、いわゆる思い違いが生じただけであって、彼らからすると真面目な仕事をしているというふうにいえなくもないと思っていいんですか?
牧野:そうですね……認識・理解の違い。
坂口:なるほど。じゃあ、そのケースはちょっと彼らが高品質じゃないというよりも定義が違うというだけなんですね。
牧野:そういうふうにも言えますね。だから、明文化した条件でおこなう発注する前の、完成状態の確認が非常に重要なんです。あうんが通用しないから。
(つづく)