調達・購買部門に必要な競合分析(牧野直哉)
●なぜ、調達・購買部門に競合分析が必要なのか
競合分析といえば、社内でも営業部門がおこなうことだ。そんな風に考えていませんか? 今回のシリーズでは、調達・購買部門にも競合分析が必要となる理由と、具体的な分析方法について述べます。
調達・購買部門で「競合分析」が必要となる理由は、三つあります。
1.調達・購買能力も競争力要素の一つ
企業は、市場における競争環境下におかれています。そして競争を左右する優位性は、企業内のさまざまな機能の総合力によって決定されます。当然、調達・購買部門やサプライチェーンの優劣が、企業や事業、製品の競争力の一翼を担うのです。
2.自社分析+競合分析
競合分析には、まず自社の的確な理解が必要です。そして、自社の優劣を相対的に判断するために競合分析が必要となります。したがって、競合分析とは、自社分析とセットでおこなうべきものです。
3.判断基準
自社の戦略や、事業の方向性の正誤や、対競合企業での強弱を、分析によって判断します。弱みは隠し、除去して、強みは誇示して伸ばします。
続いて、競合分析は、具体的にどのように活用するのでしょうか。必ずおこなうべき競合分析とは、自社と販売市場で競合する企業を対象にした分析です。自社と競合他社を比較して、強み・弱み・違いを理解し、事業活動を見直す「気づき」とします。自社(バイヤー企業)の業務内容の改善・高度化に活用するのです。
次に、競合関係にあるサプライヤーを対象にした分析です。競合関係にあるサプライヤーどうしを競合分析し、競合見積の戦略に徹底活用します。具体的には、双方の強み/弱みを的確に理解し、「弱み」を指摘し、改善を見積条件に織りこみます。
最後に、これは調達・購買部門ではおこなわない可能性の高い、競合関係にある顧客どうしを対象にした分析です。例えば、需用の拡大期に、供給能力が限定される中で、需用が供給能力を上まわってしまった場合、どの顧客を優先して供給するかといった場合にも活用します。
このように、競合分析といっても、分析した結果は、営業部門だけでなく、調達・購買部門をはじめさまざまな部門で活用可能です。
●競合分析手順
競合分析は、次のプロセスでおこないます。
1.なにを分析したいかを決める
調達・購買部門では、販売市場で競合する企業を分析するのが、自社(バイヤー企業)の強み・弱みが判明し、調達・購買戦略立案にも役立ちます。しかし、実際に競合している企業の分析に必要な情報収集が難しい、特に競合企業の調達・購買部分や、サプライチェーンに関する情報収集は、一朝一夕に達成できるものではありません。したがって、競合しているサプライヤーを分析するほうが、情報入手も実際の分析手法修得にも役立ちます。自社(バイヤー企業)の競合企業分析は、長期的な視野で取り組みます。
具体的には、次の三つです。
(1)競合範囲(分析対象)の決定
次の3つの基準で、分析対象を選定します。
・製品基準
・市場(地域)基準
・企業基準
(2)対象企業の決定
対象企業の決定に際しては、次の3つの点を網羅します。
・業界
・具体的な企業名
・現在の競合企業と、未来の競合企業
ここで「未来の競合企業」について。これは、現時点では競合関係にない企業であっても、将来的な競合関係を想定した企業を選定します。たとえば、同じサプライチェーンの上流企業と下流企業を考えてみます。日本でもAmazonは当日配送といった取り組みにチャレンジしています。しかし、Amazonを支える物流は、ヤマト運輸や日本郵政がおこなっています。Amazonとヤマト運輸や日本郵政は、現時点では相互補完関係になります。ヤマト運輸が通信販売業に本格的に参入するといったケースが、未来の競合企業の考え方です。
(3)分析ポイントの仮説設定
・企業戦略/事業戦略/製品戦略
・実行状況
・QCD××
自社(バイヤー企業)の現在の優位性を維持・拡大するためにはどうすれば良いか。あるいは、現在の劣勢を挽回(ばんかい)するにはどうすれば良いか。こういった視点から、なにを分析するのか、そのポイントを決定すると共に、現在の状況から、想定できる仮説をたてた上で、分析をおこないます。
2.分析を進めるために必要な情報を集める
実際の分析は、次の3つのポイントで進めます。
(1)競争環境 5forces分析
5forces分析は、すでに読者の皆様もご存じでしょうし、さまざまな文献もありますので、ご参照ください。私がお勧めの文献は、やはり本家の「競争の戦略 M.E. ポーター」です。
(2)業界ポジショニング
・業界規模(市場規模)
・市場内シェア
これは、分析対象(自社も含む)が、どんな市場にあって、市場の中でどんなポジションを占めているかを明らかにするものです。
次回は「業界はなにか」を考えます。
(つづく)