明治大学政治経済学部准教授・飯田泰之さんとの対話(坂口孝則)

*前回から明治大学の飯田泰之さんとの対話を掲載しています

◎経済学や経営学は「予想」のための学問ではない

飯田 僕は「この業界が儲かります」という話をするエコノミストや学者が、大嫌いなんですね。その理由は、何度も繰り返しますが、現場にいるわけでもない学者風情にそんなことがわかるわけがないからです。そんなことがわかるなら、「じゃあ何でお前が経営者にならないの?」「なんでその会社の株を買わないの?」と思ってしまう。もっと勘ぐってしまうと、「その業界から講演料をもらいたいだけだよね」、と思ってしまうんです。実際、ほとんど宣伝用の記事を書けと言っているに等しい依頼が来ることもあって、何件か断ってたりします。「『これからは流通業が来るぜ』みたいな切り口でインタビューをお願いします」とか「『不動産業界にはまだまだチャンスがある』って言ってください」とかいう依頼が平気で来るわけですが、そんな確信の持てるいい業界がわかったら、経済学の研究は趣味にして、僕がとっとと起業しますよ(笑)。とにかく、人から教わった情報で簡単に儲かったり、自分が知りもしないビジネスに手を出して成功するわけがない。

 とにかく、経済学や経営学というものに対して、「予想」を求めてしまう人はどうしても後を絶たないわけですが、「学」にそんな力はありません。マクロの統計を元に「政府の経済政策で円高をなんとか是正しましょう。あとは民間に任せましょう」と言うのがせいぜいです。こういう話をすると、よく「ミクロの現場を見ずに、なぜマクロのことがわかるんだ」とか言われるわけですが、これについてはマルクスの『資本論』に「細胞の観察よりも花や動物の観察のほうが容易である」という有名な言葉があります。ミクロな細胞がどうやって物質代謝をしてるのかを調べるのはものすごく難しいけれど、花がどうやって咲くかとか、犬がどんなふうに走るのかというマクロの話なら簡単に理解できるというわけです。

 ただ、日経新聞なんかの広告欄には、「この業界は今後どうなる」「これからはインドに投資すべき」みたいなテーマの経営セミナーやビジネスセミナーが溢れていて、みんなが聞きたがっているのは圧倒的にそういう話です。それはもちろん、単純に関心のある業界の動向について自己投資として勉強したり、人脈を築いたりといった地道な動機もあるでしょうが、楽して儲ける方法や、役立つ市場予測を教えてくれるんじゃないかという何となくの期待も少なくないと思うんですよね。
坂口さんの業界は、そういう話をある程度やっていかないと仕事にならないと思うんですが、それらのセミナーは実際どういう動機の下に行われていて、中では何が話されているかというお話をうかがいたいんですが。

坂口 はい。私がやっているセミナーは大きく二種類あって、「原価計算・コスト削減」と「営業支援」の二つです。後者の顧客となるのは、たいてい不景気で売り上げが落ちて困っている中小企業の経営者のみなさんですね。彼らが考えていることは二つしかなくて、まず一つは既存客に対していかに売上を伸ばすか、もう一つは事業機会をどこに見つけて新規の顧客を開拓するかということです。そこで、僕が面白いなと思うのは、その困っている人たちがまずどこに行くかというと、地元の商工会議所支部に行くんですよ。もちろん、経営者同士が仲良くなるためには有効でしょう。でも、商工会議所へ行っても絶対に事業機会の答えなんてあるわけがない。なぜって、商工会議所の職員の人たちは実際にビジネスをやっていないんですから。それに、会員もみんな売上や事業機会検索に困っているわけですからね。もちろん、会員同士で仕事を回しあうというのはあるでしょうね。でも、その人たちが考えつかないところに、新たな事業機会があるはずなんです。

 実際、商工会議所に呼ばれて講演をすることもあるんですが、寝ている人の率も結構高いんですよ(笑) 参加者によっては、本気で新しいビジネスを見つけようという気概さえあるのかと疑ってしまうこともよくあります。そこまでになるともう現実逃避というか、懇親会とか飲み会が目的なんでしょうけど。結局やはり、地道な自己投資と言うよりも、楽して売上を伸ばせる話が聞けたら儲けものだから、行くだけ行ってみようか的な考え方のウエイトが大きいという感じがしますね。もうすこし前向きな人の場合は、「他の業界で儲かっていることをうちにも適用できないか」という動機があると思います。実際、そういう質問もよく受けますし。

 ただ、僕はセミナーを受ける側としてあちこち潜入してみると、かなりデタラメをやってるなと思うところも結構あります。例えば、「これからはロシアでB to Cマーケットが必ず流行る」といったことを、マーケット情報を元にして話すセミナーがあったんですけど、これは役に立たないなと思いました。というのは、ロシアってクレジットカード文化がほとんど無いらしくて、向こうの検索エンジンの連動広告って、注文電話をかける仕組みになっているんですね。だから本当に日本人がB to Cのビジネスをやろうと思ったら、電話注文に対応できるロシア人通訳とかがいないと絶対にできないはずなんです。そういう実情を知らずに、経済データだけ見て「これからはBRICsの一角であるロシアだ」「ロシア向けのB to Cビジネスがこれからの流行だ」と喧伝しているようなセミナーを聞いても、中途半端なトリビア知識しか得られないでしょう。

 それから、同じくBRICsでやたらB to Cのビジネスチャンスを推奨されるのが中国ですが、これもそう簡単にはいきませんよね。例えば、僕が実際に聞いた話としては、まずメールアドレスをできるだけ集めて無料のメールマガジンで集客するというネットビジネスがありますよね。でも、それを中国でやった場合、使っちゃいけないNGワードが何百個もあるので、それを知らずに使った瞬間に配信不能になってしまうようです。そういう、実際やった人じゃないとわからない話って結構あると思うんですよ。もっと言うと百度(バイドゥ)という中国最大の検索エンジンにも、今は広告代理店経由ではないと連動広告を掲載できないんです。基本的には仲介してくれる中国企業がないと日本企業はビジネスできないんですって。また、ネット広告だけが効くかと思えば、意外に費用対効果が良いのは交通機関に設置してあるLCD(液晶ディスプレイ)という結果も出ています。中国人が持っているクレジットカードに対応した販売サイトを構築できるかという問題もあります。もちろん、人口が多いからビジネスチャンスはものすごい。「検索エンジンにバナーを設置してくれれば8000万ビューがあります」と喧伝する売り込みも受けたことがあります。「でも、もっと効くのは、政府の要人をご紹介するサービスです」と言われました。特にB to Bは人とのつながりの濃さがビジネスの成功を左右するからです。それくらいのことは実際やればわかるはずなのに、やたら中国ビジネスを勧めている記事があるなと思ったら「取材協力アリババ」とか書いてあったりして、明らかに宣伝だったりするんですよね。

飯田 確かに、データを見ると中国の企業は異様に付加価値が高かったりしますよね。でもそれは、外国企業にとって、中国市場が成長性があって魅力的だということを必ずしも意味しません。なぜ中国企業が高付加価値化というと、それは市場が規制だらけだからですよね。

 経営学の目で見ると、付加価値とは何かといえば、粗利のことです。で、粗利とは何かと言うと、安くつくれるものを高く売る能力に他なりません。付加価値を確保する方法は二つしかなくて、一つは正攻法で他社にはつくれないものをつくること。そしてもう一つが、規制で守ってもらうことです。市場経済全体を健全に機能させるために、経済学者は規制に反対するわけですが、個々の会社にとっては規制ほど有難いものはないんですよね。だって、競争相手を政府が公的にガードしてくれて、値段を吊り上げることができるわけですから。

 で、中国共産党が何のためにそんな規制をしているかと言えば、日本をはじめとする外国企業に、絶対その付加価値を与えなくないからですよ。そうやって外資を競争からシャットダウンすることで高い成長性を維持している市場に、日本人が何のルートもなく進出して、有利な規制のおこぼれに与れるなんていう道理がない。

 だから、経済学や経営学を学ぶことに商売上のメリットがあるとしたら、それは「儲かる」ための予測をしたりうまい話にありつくためではなく、こういう「儲かりそうもない」怪しい話を見破る道理を身につけて、騙されないようになることなんじゃないですかね、強いて言えば。

◎「確実に儲かる投資先」なんてわかるわけがない

坂口 それから、サラリーマン向けの個人投資の話も盛んですよね。ちょっと前なら投資信託、最近ならFXを中心に、「低リスク」を売り物にして「銀行に預金するよりずっとお得なので手軽に始めましょう」みたいな煽り方をする金融商品のネット広告が溢れていました。僕のところにも、証券会社とかからよく「必ず儲かる方法があるんです、『週刊東洋経済』にも載ったんですよ」なんてセールス電話がかかってきます。けどそれって、よく見てみると広告でしたけれど(笑)。あと、日経新聞の新年最初の号とかで、有名企業のチーフエコノミストが株価予想してたりしますよね。だから一般の人からすると、そういう超偉い先生が株価予想をしているからには、株や各種の証券の値動きには何か予測の成立する根拠のある法則みたいなものがあって、それを知りさえすれば確実にリスクを回避したり、着実に儲けられたりする必勝法があるんじゃないかという気にさせてしまうところがあるんじゃないでしょうか。

 けれども、株価予想をする人たちってかなりうさん臭いことを言っていて、過去の値動きのパターンから将来予測をするようなテクニカル分析系の信憑性は、ファイナンス理論では明確に否定されているにもかかわらず、ファンダメンタルも見ずにテクニカルにばかり走ろうとするでしょう。よくあるのが「株はランダムウォークだから、そのランダム性を分析することができる」という誤解。「いや、そうじゃなくてランダムウォークだから予想できないし、現在の株価にはいま予想できるすべてが盛り込まれています」といっても、なかなかテクニカル分析という宗教を信じている人にはわかってもらえない。実際、あるマネー雑誌の編集者の方に聞いたのですが、かつて取材した「儲かっている投資家」に数年たってからもう一度取材させてほしいと頼むと、ほとんどの人が失敗していて「取材はやめてくれ」と言われるそうですしね。まあ、そうは言ってもパチンコ雑誌が廃れないのと同じで、一攫千金の夢を見て株式投資の必勝法を求める人は、今後も減らないんだろうなとは思いますが。

 そこで、金融商品で確実に儲かる方法、あるいは損をしないで済む方法がありうるのかどうか、改めてご意見をお聞かせください。

飯田 まず、相場予想については、株の上がり方がわかるなら、なぜ自分で買わないのか、という根本的な問題があります。競馬の予想屋さんって、全然大金持ちじゃないじゃないですか。同様に、株式の評論をする人も、うまいことやってセミナーで大金持ちになる人はいますけど、株そのもので大金持ちになった人って聞きませんよね。

 もしテクニカル分析である銘柄の株価が必ず上がるということがわかるなら、その株は現時点で買われるので、現時点で値段が上がっているはずです。だから、現在の株価に、すべて情報が織り込んであるはずだということです。もし、過去の株価で将来の株価がわかるんだったら、それは現時点に織り込まれちゃうから、その時点でテクニカルの法則って崩れるはずなんですよね。僕は卒論指導で、必ず1人か2人かの学生にテクニカルの検証をやらせるんですけど、どうやっても出ないんですよ。

 テクニカル分析で一番多いのは、移動平均法とRCIですかね。ああいう変な指標を持ち出したからと言って、まったく当てにはなりません。よく相場関係の本だと、2カ月分くらいのチャートが出ていて、「トヨタはこの時にこういう絡み足をした」みたいなことが書いてあってあったりしますよね。それで全部の上場銘柄を探っていけば、いくつかは当たるのかもしれませんが、単一の銘柄で1年間の動きを移動平均法で予測してマーケットに勝てるというようなことは、ほぼ無いです。

 ジャンボ宝くじは毎年何十人も当たっているけど、宝くじの必勝法の雑誌ってないですよね。相場は基本的にギャンブルですから、全員サイコロを振って売り買いを決めていたとしても、偶然勝つ人っていうのは必ず何人かいる。それで参加者が何百万人いれば、何回も勝ち続けている人は、一人や二人は当然いるというだけの話なので、そういう人たちが相場で個人資産何十億円分も稼いで雑誌によく出てくるからと言っても、何か必ず当たる方法を知ってるわけではありません。

 実際、いわゆるヘッジファンドなどのファンドマネジャーで、マーケットポートフォリオ、つまり日本経済の成長率以上の利回りを3年間確保できたら、世界に何人いるかという超一流トレーダーと見なされるし、5年オーバーになったら神。業界の歴史に残るファンドマネジャーになれると言われてますね。山崎元さんなんかは、何回か続けて勝ったてきたから今のプレゼンスを築いてるわけですけど、話していても徹底して「あんなの偶然だよ。ずっとやっていれば、続けて勝つこともあることはある」としか言わないわけです。

坂口 僕が思うには、唯一有効なのは、世界の主要市場の主要銘柄をすべて持っておくインデックス投資くらいでしょうか。なぜかというと、世界経済が年々成長していくという前提があるならば、世界のすべての国のGDP比率分の主要株式をすべて持っていれば、理論的には世界経済の成長率と同じ利回りが必ず得られるわけです。それは極端だとしても、世界各国のリスクに応じて、債券と現金をいかに持っておくかを配分しながら、全世界のインデックスに投資すればいい、ということになるわけですね、簡単に言えば。これなら相場雑誌も妙なテクニカル分析もいらない。

飯田 そうですね。実際には、アフリカで毎年内戦しているような「発展途絶国」とも呼べるような明らかに経済成長の見込めない途上国とかは除いて、1人あたりのGDPが1万ドルを超えているような先進国やBRICsにウエイト付けしたインデックスを持っておくのが一番いい。その中で均していくと、利回りはだいたいプラス2%くらいに落ち着いてきます。理屈はよくわからないけれど、10年くらいのスパンで見れば、出っ張りや引っ込みはあっても、経験的に年平均2%くらいは世界経済は成長していくはずですから。ただ、日本国内では円建てでの収益率が重要ですから、グローバルファンドには為替リスクはある。日本だけでやりたいなら、日本株オープンのインデックスでいいんでしょうが、しかし現在の日本株はリスクが大きすぎるでしょう。「もし1000万円あったら日本株で運用しますか?」と聞かれたら、僕はノーですね。

 特に、日経225については、今どき何であんなバカなものが生き残っているんだろうと思います。TOPIXのほうがずっといい。日経225は昔の東証平均にあたりますが、あまりにも時代遅れなので東証がやめたんですね。そうしたら日経が「売ってくれ」と言ってきた。東証は「こんな時代遅れなものを売って、お金取っていいの?」という感じだったでしょうが、ともかく日経に売り渡した。ところがそれが現在でも使われている。

 とりわけ日経225がダメなのは、1990年代に非常に恣意的なインデックス銘柄の大幅な入れ替えを行っていて、その前後で日経平均は統計的に何の意味のない数字になってしまったことです。だから、統計分析には通常、TOPIXしか使いません。そして、宮川公夫先生という統計学の大御所の方も「恣意的にインデックスを入れ換えるなんて自殺行為だ、かならず先買いが生じる」とずっと怒っていたように、日経225の銘柄が入れ替わった際、その入れ替わった先の銘柄を買うと、必ずみんな儲かってしまったんですね。あるいは、「事故株買い」に利用しやすいという性格もあって、典型的なのは雪印事件の時のケース。つまり、雪印株は日経225に入っているので、事件の際に最下値になった株を目ざとい人はみんな買ったわけです。なぜなら回復するときにインデックスが必ず買うから、つられて上がるはずだという読みで、それが読み通りになった。こうした、制度の裏をかくやりかただけは儲かるんですけど。

 経済全体の成長があまり期待できない今の日本国内での投資で、他にまだ儲けられる可能性があるとすれば、いわゆる合併裁定やシーズナリティ(季節に伴う相場変動)のある銘柄を利用する方法だと思います。相場にはイナーシャ(以前と同じ変動のままでいようとする性質)があるので、そういう投資対象を見つければ、数年くらいはインデックスよりパフォーマンスがいい可能性もあるでしょう。ただ、それが相場雑誌などで取り上げられるようになってしまえば終わりですよね。みんなが知らない安いときに買って、みんなが知り始めた高いときに売り、やがて波がなくなって終わるというのが投資一般の性質ですから、少なくとも人が教えてくれることや雑誌に載っていることでは、原理的に絶対儲けることはできないんです。

◎ここまでの対談を振り返って

坂口 奇妙な方向に意図せず会話が進むとしたら、それはきっと対談の優位さです。自分だけが原稿を書く場合と違って、さまざまな内容に刺激されます。それにしても、意外だったのは、やはり経済学的にも、「絶対に儲かるはずなんてねえよ」という言葉です。そうなんだなあ、ということは、やっぱり目の前の仕事に注力したほうがいいんだな、と思っちゃいましたね。それがいかに凡庸な答えであっても。

(つづく)

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