ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)
バイヤーのためのプレゼン論 2 ~なにをプレゼンするのか
前回は、普通とは異なったバイヤー、一歩抜きんでたバイヤーとなるために、プレゼンテーションを活用する意義を述べました。今回は具体的に何をプレゼンするのかについてです。
具体的に?といっても、なにもかも、あれもこれもが回答になります。しかし、それではこれまでプレゼンをしてこなかったバイヤーは路頭に迷う(でもないですね)ことになります。ここで、これまでにどんなプレゼンテーションを受けてきたか、について考えてみます。
1. 会社案内(事業部門含む)
2. 製品のPR・紹介
3. 提案内容の説明
4. 新しい仕組みの説明(受発注の方法とか、代金支払い方法とか)
5. 新しい技術や、市場動向の説明
こんなところでしょうか。提案型購買を実践するためのプレゼンとしては、上記1~5の内容についてプレゼンができるようにする必要があります。それでは、それぞれについて、バイヤーがすべきプレゼンテーションの内容に関するポイントを説明します。
1. 会社案内(事業部門含む)
誰もが知っているような有名企業だとしても、サプライヤーの皆さんが知るバイヤー企業の印象はまちまちです。私はかつて大手企業に勤務していました。私の経験では、サプライヤーに勤務する人それぞれに、私の勤務先に対してまったく異なる印象を持っていました。大手ゆえに、いろいろな方との沢山の事業でさまざまな接点があるわけです。したがい、誰もが知っている大手企業でも、バイヤー自身が司っている事業を中心にした会社紹介が、これから続くプレゼンを踏まえ非常に重要なのです。
2. 製品のPR・紹介
これこそがバイヤーには非常に重要です。バイヤーとして自ら購入するモノやサービスについて語れる人は多いでしょう。しかし、自ら購入したものが結果、どんなモノやサービスに使用され、バイヤー企業側の製品やサービスとなって顧客の手に渡るのかといった部分まで知るバイヤーは非常に限られます。そうなる理由は、自分が購入しているモノやサービスが、自社が顧客に販売しているモノやサービスに、どんな形で繋がるのか・使用されるのかが単純でない点が挙げられます。当然、いろいろ組み合わせて、沢山の同僚の手を経た上で、最終的に自社の製品となります。自分が担当している分野のモノやサービスが、自社の製品やサービスにどんな影響を及ぼすのか。これは、まさに自分が調達した結果が、どのような付加価値に結びついたのかという事に他なりません。しかしながら、見出すのは非常に難しい。難しいからこそ、見出す(=学ぶ)価値があるのです。
私は、かつて自分で営業として販売していた製品の購買を担当していました。実際のマーケットの状況を踏まえたへの説明が、サプライヤーの皆さんにもっとも受けがよく、興味を持って聞いてくれたと感じていました。
3. 提案内容の説明
これは「提案型購買」の本懐です。どのプレゼンもまず自分が何を買っているのかが基点となります。自分が買っているもの、そして今の購入状況に関する様々な問題を、正しくサプライヤーへ伝えることができるかどうか。正しく伝え、理解してもらうためにプレゼンが必要というわけです。キーになる内容としては、世界に一つだけこのサプライヤーしか供給できないのでなければ、バイヤーは数社のサプライヤーに同類のモノやサービスを発注しています。そのような状態をサプライヤー側から見てみます。自社の競合メーカーのリソースに直に触れているのがバイヤーであるわけです。昨今では機密保持の問題もありますし、それ以前に一般的な商道徳の観点から、なんでもかんでも他者の情報をリークするのは慎まなければなりません。しかし、自分や自社を主語にして、そのニーズを語ることまで制限されるべきではありません。当然仕様書やメーカーであれば図面と言ったものが存在します。自分の欲しいものについて、サプライヤーへ「こういったものが欲しい」と提案するには、仕様書・図面といったものを理解する必要もあります。その上で、バイヤーとしての、競合メーカーの仕様や図面をベースにしたプラスαがいえるかどうか。これが提案型購買のキーなのです。
4. 新しい仕組みの説明(受発注の方法とか、代金支払い方法とか)
長年おこなってきたサプライヤーとの取引も、時代と共に変化の波にさらされます。それは、バイヤー企業としての要求内容だけでなく、取引の基本的な条件にも及びます。サプライヤーに有利な条件変更であれば、バイヤーとして特別な説明をする必要ないかもしれません(そんなことはないんですけどね)。しかし、バイヤー企業側に有利な条件変更、例えば支払い条件の変更は、サプライヤー側の資金繰りに影響を与えるケースもあるでしょう。悪化する条件にサプライヤーの理解を得るためには、変更へと至った背景や、背景がどのように条件へと影響を及ぼしたのかについて、明確な説明が不可欠です。言われたとおりにしろっ!と一喝できればいいのかもしれません(決してそんなことはありません)。でも、信頼関係を築こうとすれば、まず変更への理解を得ることが必要になります。そのためには、正しく説明することがスタートになるわけです。
5. 新しい技術や、市場動向の説明
これも上記2の内容と同じく、今のバイヤーに欠けている分野ではないかと感じています。新技術に関しては、各サプライヤーにおいてもいろいろな形で情報収集を行っているはずです。しかし、サプライヤーからみれば、なによりも直接顧客の口から語られる新技術の方向性ほど価値を持つものはありません。
新しい技術、未来を語るために、結果的にミスリードとなるリスクがあります。そのリスクへの最大の防御策は、定期的に継続的に行うことです。自社内での軌道修正があれば、それも含めてサプライヤーへ伝える必要があるわけです。
ここまでお読み頂いて有難うございます。なにか、お気づきになりませんか。バイヤーのプレゼンと銘打っていますが、こうやってまとめてみるとわかります。多かれ少なかれ、実際にバイヤーがサプライヤーに日常的に話をしている内容に他なりません。では、なぜプレゼンが必要なのか。それは、次回お話します。
<つづく>