調達・購買部員に必要な為替レート予想パート2(坂口孝則)

前回から海外調達等で必要な為替レート予想をお話しています。やや悩んだものの、パート1を読んでいないければわからないため、再掲します。パート1お読みの方は、下に飛んでください。

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安倍政権の良し悪しは別にして、この政権下で円安が進んだのは事実です。これは必ずしもアベノミクスが円安誘導に成功したと断言はしていません。というのも、安倍政権発足前から円安の傾向はあったわけですし、世界の通過状況とも無縁ではありません。

ただ、円安は大きな変化をもたらした、と私は思います。大きな話では、日本生産への回帰検討であり、小さな話では、調達・購買部門における輸入推進の停滞です。
なお話がそれるようですが、私は生産回帰もさほど信じていません。しかしそれは、当メールマガジンで牧野さんが論じてきたテーマですので、ここでは割愛します。

私が述べたいのは、後者「調達・購買部門における輸入推進の停滞」です。あるセミナー会社いわく、「とたんに輸入・貿易系のセミナーに人が来なくなった」ようですね。そりゃ、これまでが超円高だったわけですから、その反動として、輸入せずの方針を決めたとしても理解できる話です。ところで、その為替レートなるものは当てられるのでしょうか。これが今回のテーマです。

まず結論からすると、当てられません。為替レートを予想できるひとがいたとしたら、そりゃ大金持ちになっているはずで、企業で勤めていないでしょう。そうではなく、現実的に目指すべきは、「100点ではないけれど、70点くらいで良いので、だいたいの推移を予想できる」ことになります。

問題意識や要点は次の通りです。

・輸入や逆に現地生産を決定する際にも、為替の理解は必要
・しかし調達・購買部員は為替ディーラーではないので、深い知識ではなく、実務的な「使える」為替の知識があればいい
・今回は「為替の基本的な考え方」から「実際の中長期為替予想」そして国際収支等の説明をおこなう

では開始します。まず、為替予想については、スパンによって異なります。短期的な予想(デイトレードなど)は難しいものの、中長期的にはこの「購買力平価」なる考え方が使えます。

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この購買力平価について、「企業物価指数」と「実勢為替レート」を使います。なお、購買力平価は難しく考えないでください。いや、実際は難しいものの、わたしたちは実務家ですから、簡易的に説明します。これは、いわば、各国の物価が存在するときに、いくらで為替レートが存在すれば均衡するかを考えます。それでも難しいですね。こういう例を考えてみましょう。

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この例では(あくまで例です)、ビッグマックがアメリカでは3ドル、日本では300円で販売されているとします。実際の価格とは異なります。あくまで例でとらえてください。そうすると、このビッグマックがまったく同じであれば、300÷3=100、つまり1ドル=100円が最適なレートとなります。

だってそうですよね? そのレートで交換されれば、均衡するはずで、誰もソンやトクはしません。正確な表現ではないのですが、このレートよりも安かったり高かったりしたら、裁定取引が可能となります。裁定取引とは、これまたわかりやすくいえば、ある市場の商品をもってきて、違う市場で高く販売することです。だから、為替レートは、このケースでは、1ドル=100円となります。

有名な指標は、「ビッグマック指数」「トール・ラテ指数(スターバックス指数)」で、「コカコーラ指数」や、「iPod指数」なども存在します。

ただ考えてほしいのは、次のようなケースです。

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このビッグマックが、アメリカで5ドルになったとします。アメリカの経済が好調で、全体的な価格感が上昇してきたのですね。インフレによって価格が相当なアップだった、と。そのときに、日本の価格が変化しなかったとします。そうすると、300÷5=60、ですから、1ドル=60円が最適な為替レートとなります。

これを噛み締めてほしいと思います。

なんとなく感覚と違う気がするかもしれません。アメリカ経済が好調でインフレ、日本は横ばいなのに、円が買われ円”高”になるというのです。つまり円の価値が高い状況になるのです。繰り返しますが、これを噛み締めてほしいと思います。

ケース①アメリカのビッグマックが高くなる→円高になる
ケース②アメリカのビッグマックが安くなる→円安になる

*これらはどちらとも、「通貨」「モノ」の価値が逆転することに起因します。というのは、こう考えてください。

アメリカ:物価が上がる、とすれば相対的にお金の価値が下がる
日本:物価が下がる、とすれば相対的にお金の価値が上がる

ということなので、お金どうしを比較します。アメリカではドルの価値が下がり、日本ではお金の価値が上がっています。だから、通貨間では、日本の円が買われ、結果、円高になるのです。

かつて、「なんで日本はデフレなのに、円高になるんだろうなあ」と嘆いていたひとがいました。しかし事実は、デフレだから円高になるのです。これは続けます。

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(ここからパート2です)

さてそこで実際の物価水準を見てみましょう。ここで注意いただきたいのは、パート1でビッグマックを使って説明した消費者物価ではなく、企業物価指数を使うことです。理由は繰り返しません。

そこでPPIという指標を使います(producer price index)。ここではドルを説明しているので、米国関連のサイトを見てみましょう。具体的には“Bureau of Labor Statistics”から入手可能です(http://www.bls.gov/ppi/data.htm)。ほかのサイトでもかまいませんので、PPI~Producer Price Indexを検索してください。

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そこで、“Bureau of Labor Statistics”の”Top Picks”へ(http://data.bls.gov/cgi-bin/surveymost?pc)移動してもらって “Total manufacturing industries”を選択してください。

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これでアメリカの物価関連はダウンロードできるはずです。1980年代はさほど物価に変化はありませんが、2014年までを俯瞰してみると約2倍に変化しているとわかりますよね。

次に日本の物価はどうやって検索すれば良いのでしょうか。日本銀行のサイトが活用できます。

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日本銀行時系列統計データより(https://www.stat-search.boj.or.jp/#)、「主要時系列統計データ表」のところから「月次」を選択してください。すると次のような画面が出てきます。

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「企業物価指数[国内企業物価指数] 総平均」を見てみましょう。これが求めていたものです。あわせて、実際の為替レートの推移を一緒にデータ取りしましょう。為替レートについては「為替相場(東京インターバンク相場)」を選択してください。

最後に、三つのデータ「米国企業物価推移」「日本企業物価推移」「為替レート」が揃いましたから、ここまでくれば、企業物価指数から計算した(購買力平価から見た)為替レートと比較ができます。

どんなエクセル表でも良いのですが、私が作成してみました。

http://www.future-procurement.com/ppi.xlsx

(会社のセキュリティ環境によってはダウンロードできない可能性がありますから、ご自宅などからダウンロードなさってみてください)

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これは1986年を起点としています。1985年にプラザ合意がありましたから、そのあとの変動為替相場(正確な表現ではありませんが、わかりやすく説明するために、このような書き方をしています)を反映するために1986年を起点としたわけです。

この1986年の1月時点での実際の為替レートは1ドル=192.65円のようですね。ということは、わかりやすく仮定すれば、日本と米国で同じ商品が、1ドルと192.65円で売られていたということです。

それならば、
・アメリカ:1ドル
・日本:
192.65円
→192.65÷1=192.65

なわけですから、たとえば20年後に

・アメリカ:1ドル→これが2倍になっていたとすれば、2ドル
・日本:
192.65円→これが変わらないとすれば、192.65円のまま
→192.65÷2=96.325

となり、1ドル96.325円になるはずですね。だから、実際の企業物価指数を使ってみましょう。さらにグラフ化したのがこれです。

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いかがでしょうか。「うおーー。パソコンと無料のデータを使っただけなのに、中長期的には為替を予想できているじゃないか」と思っていただけましたか? そうなんです。もちろん、時期を一つだけとらえれば、実際の為替レートと、(購買力平価から見た)為替レートはズレが生じています。しかし、中長期的には、けっこうあたっています。

ということで、みなさんは、公的なデータから為替を予想するという必殺技を身につけました。他国に応用したらどうなるでしょうか。日本の物価データはありますから、あとは、その国のPPI(producer price index)を探していただければ良いことになります。

ぜひ一度、海外調達やグローバル調達のプロになるためにも、Excelなどで計算してみてください。

<了>

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