ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

●決定版!サプライヤーマネジメント 14

前号に引き続き、既に取引のあるサプライヤーとの関係を良好に継続するための方策について述べてゆきます。前回は継続するために必要な「緊張感」を、あるテレビ番組に登場した企業の社長の「苦悩の表情」でお伝えしました。今回は、そもそもなぜサプライヤーとの関係を継続する必要があるのか、について述べることにします。

72号(有料会員の方は、バックナンバーをご参照ください。無料会員期間中の方は、すこしお待ちください)で、新規サプライヤー開拓のプロセスについて、サプライヤーに関する情報収集を中心にお伝えしました。新規サプライヤーを

1. 見つけ出して

2. 情報を集め

3. 自社へ納入可能として承認

するためには、かなりの労力を必要とします。調達・購買部門のみならず、関連部門の協力を得ることが必要です。この部分は、間接部門人員の固定費として、なかなか個別に注目することはないとは思います。しかし確実にコストが発生しているわけです。また、取引を開始した後も、バイヤー企業側からの発注情報の入手方法、納入方法、支払いに関するルール等、企業によって千差万別の取引ルールが存在します。余程特殊なルールでない限り、あらかじめ合意した価格に影響を及ぼさないようでないにしろ、完全な相互理解までには小さな確認を重ねる必要があります。当然、調達・購買部門だけでなく、納品に関わる部門であったり、品質保証部門であったりといった部門も関係します。

Just In Timeとは、バイヤー企業側の生産サイクルに合わせた納入をサプライヤーに強いるものです。しかし、同期させるポイントは納入日、あるいは納入時間だけでなく、その他の細かな条件も「同期」する必要があるわけです。その同期も、バイヤー企業とサプライヤーのやりとりの積み重ねで実現されます。その「積み重ね」をおこない、問題なく納入を実現させるためにコストが発生する事になるわけです。

この「積み重ね」によって発生するコストは、サプライヤーと取引を継続する限りにおいて、発生しません。取引継続の歴史によって蓄積された相互理解によって、コスト発生を抑制することができるわけです。

また最近では、コンカレントエンジニアリングやデザインインといった言葉、そして調達・購買部門でも開発購買といった言葉で、設計・企画の初期段階から外力=サプライヤーの技術力を活用することが必要になっています。主だった製品やサービスを一足飛びに変えることは難しいですね。継続性を持った製品企画・開発には、これまでにも取引関係にあったサプライヤーの協力が不可欠です。サプライヤー評価に際して、D:開発がその項目として定着している理由も、実際にサプライヤーの設計力を活用するバイヤー企業が増えている証ですね。バイヤー企業がサプライヤーの設計力を活用する場合でも、これまでのビジネスの蓄積が有効に作用します。

しかし、これまでに述べたような関係構築でサプライヤーマネジメントにおける関係継続のメリットが終わるわけではありません。上述の内容には、実は大きな問題もあります。

日本企業のビジネス上の取引で、しばしば問題になるのは「筆舌に尽くしがたい」とか、「あ、うんの呼吸」といった言葉で表現される日本人、日本企業同士の取引条件に含まれる「非明文化条項」です。サプライヤーとの取引を継続させて、相互理解を高めた結果、その内容が双方の「暗黙知」になってしまうことが問題です。ここで、考えてみましょう。バイヤー企業とサプライヤーとの間の、様々な諸条件が暗黙知になった場合、最終的にメリットが生まれるのはどちらの側でしょうか。バイヤー企業側に売り込む側から考えると、明文化された仕様書や図面といった文書には記載されない内容への理解があることは、競合会社に対してメリットが存在すると考えるべきです。他の取引の実績のないサプライヤーは、簡単にはバイヤー企業の要求を満足できない訳です。このことが、他のサプライヤーとのビジネスの可能性を阻むものであれば、他のサプライヤーから見た場合、立派な発注障壁となりますね。

サプライヤーとの関係を継続することによって進んだ相互理解の内容は、バイヤー企業によって「明文化」しなければなりません。そして、現在と将来に別のサプライヤーへの発注可能性を広げなければなりません。この「明文化」については、次回以降に述べてゆきます。今回はサプライヤーとの関係を継続することで生まれる関係の「進化」を最後に述べることにします。

<クリックすると別画面で表示されます>

上記の四象限の図は、サプライヤーとバイヤー企業の関係の発展する方向を示します。サプライヤーとのビジネス関係は取引開始当初も、進化した後も「実務的」となる部分が存在します。しかし、関係を継続させ「進化」する場合には、

1) より戦略的に

2) より上位者と(意志決定者、マネジメント)

といった関係構築をおこなわなければなりません。これは戦略構築の初期段階から問題意識を共有し、共同して問題解決を図ってゆくためです。この「より戦略的に、より上位者と」が存在しないことが、ただ漫然と惰性で関係を継続することに他なりません。このような事態は是非避けなければならないのです。

<つづく>

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい