ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)
・これからの「仕様書」の話をしようパート3
さて今回が仕様書のパートの最後だ。調達・購買部員として、仕様書のどこを見れば良いのか。繰り返しになるものの、調達・購買部員は技術・開発の専門家ではない。ただ、何も見ないというわけにはいかない。最低限の労力で、最大限の効果をもたらすためには、何を見れば良いのか。
前回、仕様書のチェックポイントとして「5W2H」をあげた(有料会員の方は、バックナンバーをチェックしていただきたい)。
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・「5W2H」観点で仕様書を眺めてみると~つづき
前回までで「What」と「Who」を見ておいた。主旨は「5W2H」の法則で見たときに、それらがちゃんと定義されているか(あるいは高い見積りを誘発する書き方になっていないか)をチェックするのだ。
次に見るのは「When」だ。これは文字通り、「いつ提供すべきか、納入すべきか? いつまで提供すべきか?」になる。これは仕様書に書くべきかという議論もあるだろう。もちろん、別途指示しているのであればそれで良い。繰り返しになるが、サプライヤーに対してちゃんと伝えることができているか。それが問題だ。
では、見ていこう。
代表的なものを載せた。これらで共通することは、「サプライヤーが過剰な見積りをせざるをえない状況を回避できるか」ということだ。サービスでも物品の納入でも、その頻度がわかればより精緻な見積りが期待できる。特に工数が見積りの主要を占めるのであれば、それは問題となる。
たとえば、簡単な例であるけれど、このような場合はどうだろうか。
答えが下だ。
いつから始めるのかがわからなければ、サプライヤーの見積りは概算になる。また、午前中なのか午後なのかがわからなければ、これも厳密な計算の妨げになるだろう。
そして、次に「Where」だ。これも文字通り「どこで提供すべきか、納入すべきか?」だ。製品によっては、物流コストは2%以下のものもある。ただ、製品によっては5%~10%を占めることもある。物流コストがバカにならない場合は、Whereの指定は重要だ。
次々進んでいこう。そのあとは「How」を確認しよう。これも文字通り「どのように提供すべきか?」だ。
目的物をどのように提供すべきか。これも齟齬があれば見積りは乖離する。上記はシステムだったり清掃だったりするけれど、製造業においても同様だ。ここで、問題を考えてみよう。
システム導入を目的とする場合、このようにレスポンス条件を規定することがある。99%は規定されている。しかし、残りの1%のHowが規定されていないことにお気づきだろうか。
また、このような問題はどうだろうか。
これもおわかりだろう。「サポート体制」や「問い合わせ」が不明なのだ。
また、この「365日24時間」という表現を使う場合は注意が必要だ。
このように、「うるう年」のことを考慮されているかがキーになる。もちろん、読者がお勤めの企業が大手であれば、あまり反旗を翻すサプライヤーがいないかもしれない。ただ、うるう年のときに1日システム障害があったとして、残りの365日24時間は使用書通り動いていた、と反論されたらどうだろうか。
そして、最後が「How much」である。これは「いつ支払われるのか? どうすれば支払われるか?(評価基準は?)」のことだ。
支払い条件によってサプライヤーの価格が変化する。これは誰だって知っている真実だろう。しかし、その真実を知っていながら、支払い条件(支払基準)について何も書かれていないことがある。これは必ずしも「目標価格を書け」という意味ではない。目標価格ではなく、そもそも対価がいつ支払われるのかを明記せよというわけだ。
さて、ここまで仕様書の見方を述べてきた。
仕様書で排除すべき3つの項目は、この「5W2H」を見てゆけば良い。
もちろん、あまりに明確にしすぎるとサプライヤーから代替案が出てこないという障害もあるだろう。
理想的な仕様書は「目的を明確化し、それを達成する手段はサプライヤー(取引先)に任せること」だ。仕様書を確認し、その明確化に努める。そして、目的や外せない要件以外はサプライヤーの叡智を集結する仕様書にしておくこと。そして、サプライヤーが必要以上に「高く見積もってしまう」状態から脱すること。
おそらく、みなさんは一人で調達・購買をやっているわけではない(と思う)。他のメンバーもいるだろう。一番大切なのは、これまで仕様書を修正したり、訂正したりした実績を集めておくことだ。「こう書いたら安くなる」「こう変更したらサプライヤーからVA/VE提案が集まりやすい」……そのような実例をできるだけ集めておき、メンバーで共有する。これだけで、優れた仕様書に近づき安くなる。
ナレッジポータルとか、そんなかっこいい横文字で説明する気はない。もっと現場に根ざした「知の共有」によって、各調達・購買部門は設計・技術・要求部門に対して適切なアドバイスができるようになるはずだ。
仕様書は5W2Hによって確認せねばならない。しかし、その確認とは一過性のものではなく、継続した、そして実効性のあるものでなければいけないのだ。