ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

バイヤーのためのプレゼン論 1

プレゼンテーションといえば「聞くもの」。かつてのバイヤーはそうであったかもしれません。しかし、巷の書店に沢山ならぶプレゼンテーションをテーマにした文献は、バイヤーにとって無関係なのでしょうか。

私は、いわゆるプレゼンテーション、プレゼンを味方にできるかどうか、これだけでも、その他大勢と違ったバイヤーになれると考えています。書店に並ぶ沢山のプレゼンテーション本は、普段プレゼンテーションを聞く機会の多いバイヤーにも密接に関係しています。ただ売り手が持つ関わりとの差は、自分の意思で、自分の業務とプレゼンテーションに結びつける必要があることです。他と比較して代わり映えのしないバイヤーで良ければ、あえてプレゼンテーションを学ぶ必要はありません。このメールマガジンは、日本の全バイヤーの1%の方を想定読者としています。1%のバイヤーが、このメルマガを読んで、普通のバイヤーと違う存在感を持っていただくために、プレゼンテーションをやってもらう・聞くものでなく、自らも行なうものとして位置づけて欲しいと考えています。

バイヤーがプレゼンを行なうメリットには、大きく二つあります。一つ目は、私はこのメルマガでも繰り返し訴えていますが、営業力を持たないサプライヤーの存在です。バイヤーとは、自社に無いリソースを社外に求め、確保することが責務です。しかし、これまでの大企業を頂点としたピラミッド型の産業構造は、右肩上がりの経済成長に支えられて、営業をせずとも仕事にありつける構造でもありました。営業力を強化するのであれば、自社の持つリソースをより強化する方が、ピラミッド上位に位置する企業にも都合が良かった訳です。バイヤー企業が求めるのは、営業力でなく、QCDあらゆる面でより良いリソースに他なりません。営業を強化する暇があったら、自社の今の強みをより研ぎ澄ませということがニーズであったのです。このことが、最終製品をつくらない、いわゆるサプライヤーの著しい営業力の欠如を生んでいます。

各業種でまとめられるサプライヤー。各企業をよくよく見てみると、実は同じ業種といっても、各企業の優位性を表すポイントは違っています。バイヤーが求めるリソースは、一つの要素で構成されることは稀です。私の過去の経験でも、いくつかの異なったリソースの集合体を常に求めています。

サプライヤーとバイヤー企業との間で起こる様々な問題は、実はビジネスを開始する当初から予見できる内容が多くあります。要は、バイヤーのニーズとサプライヤーのリソースの細かい点でのミスマッチが、ある時点になると顕在化するのです。そのような問題を事前に防ぐ手段が、バイヤーが事前に実施するプレゼンテーションです。私はこれを「提案型購買」と呼んでいます。

二つ目のメリットは、プレゼンテーションによってイニシアチブを握る、主導権を持つことが容易くなることです。ここでは、バイヤーが自分のオフィスを離れ、サプライヤーへ出張する状況を例に説明します。

さて、出張です。そういわれて皆さんはどのような出張をイメージしましたか。新しい製品を求める場合、品質体制の確認を行なう場合、QCDのいずれかに関する交渉を行なう場合……様々な状況が想定されますね。技術的な内容でエンジニアが同行する、品質監査で品証担当者が一緒に行く、だからバイヤーは一緒に行くことに意義がある。はい、確かにその通りです。しかし、一緒にその場にいるだけでは、せっかくの出張旅費が勿体ないのです。

出張でサプライヤーを訪問する場合、事前に訪問の目的を明確にして、訪問先へ連絡します。私はアジェンダを送る……なんて表現します。せっかくの訪問を価値あるものとするために、自分がやりたいこと、確認したいことを事前に知らせて、対応してもらえる人の時間を確保してもらう、予め準備をしてもらうためです。話が高じ及んだ結果で「後日回答します」となるのはやむを得ませんが、せっかくの出張です。積み残して後日回答することはできるだけ避けたいわけです。

サプライヤーへ到着して、いざ始めましょう~となったときに、事前に送付したアジェンダを、まずバイヤーが説明します。その内容は、挨拶に出てきただけのサプライヤーの上位者にも聞いて貰います。具体的な詳細内容を同行者に委ねることは問題ありませんが、最初に今日こうします!ということを説明することが、一番簡単な主導権を握る手段です。サプライヤーを訪問しているとは、サッカーでいえばアウェイですね。不利な状況です。別に相手=サプライヤーに勝つというわけではありません。自社の当初の目的を効率的に果たすとの観点に立ったとき、サプライヤーを訪問した場の主導権を積極的に取りに行くことは、必要不可欠な事なのです。

そして、最後に今回述べるプレゼンテーションの定義です。

プレゼンと言えば、パワーポイントやKeynoteといったパソコンソフトを駆使したものを想像されるかもしれません。しかし、訪問先によっては、プロジェクターやスクリーンが無いかもしれません。それにパワーポイントやKeynoteといったパソコンソフトは、他人へ伝える際の一つの手段に過ぎません。プレゼンターとして、伝えたいことを伝えるすべての場合に、パソコン、プロジェクター、スクリーンが必要ではありません。先に説明したアジェンダのプレゼンにしても、A4一枚の資料が人数分あれば、十分に目的を果たします。プレゼンのリスナーが数十、数百に及ぶ場合には、パソコン、プロジェクター、スクリーンは不可欠となるでしょう。しかし、その場合でもパワーポイントやKeynoteで資料を作成することは二次的な作業に過ぎません。そもそも論としては、

1. 誰に

2. 何を

伝えるのか、を見いだすことが、プレゼンにおいては非常に重要なプロセスになります。バイヤーのプレゼン論と謳っているので、パワーポイントやKeynoteについても触れる内容もあります。しかし、それがメインではありません。

それでは、次回は「提案型購買におけるプレゼンの利用法」です。

<つづく>

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい