ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

コストテーブル 4 ~データの分析

前回は、

・とにかくデータは一つでも、コストテーブルをつくってしまおう

・コストテーブルは、日々データを蓄積して、更新しよう

ということをお伝えしました。そしてデータの蓄積には、エクセルに代表される表計算ソフトを使用することも御提案しました。今回は、エクセルを活用した、データの分析です。

それでは、前回もサンプルとして提示したデータを使って説明します。

これまでお伝えした方法で、データを蓄積した結果。次のような分布図を得ることができました。

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上記の分布図には、線形近似曲線を追加しています。コストテーブルの見える化が達成されています。自分でデータを収集して、このような分布図を完成させた場合、達成感を得られますね。しかし、私がお伝えするコストテーブル論では、この段階は、やっと入り口にたどり着いたところです。これから行なうことにこそ、価値があると考えています。

上記の分布図に示された線形近似曲線は、その描かれた線上以外に、それも上下に多くデータが存在します。私の分布図を見た印象では、線の上よりも、線の下(青マル部分)にデータが多く存在するようにも見えます。そして赤マル部分には、他の製品とは異なる傾向を示唆する飛び出したデータもあります。この分布図は、ある金額に影響を与えるであろうファクターと価格との関係を示しています。描かれた近似曲線の下にデータが多いということは、キーファクターから判断すると、もう少し安価でも良いのに、実際の購入価格は高いということです。苦労してデータを蓄積して、分布図にしてみた。しかし、このような結果では苦労が報われませんね。この分布図は、購入担当者である私にとって「バイヤー失格」といっているようです。

ここで「見える化」した分布図の内容を見てみます。R―2乗数は、0.2102を示しています。近似曲線では、その R-2 乗値が 1 であるか、1 に近い場合に最も信頼性が高くなります。従い、この近似曲線は傾向、価格とキーファクターの関係を的確に表現していないと判断することができます。前回までと同じデータを使用しておりますので、単純には同一線上で比較できない様々なデータが入っているためです。

ここで、データに手を加えてみます。

赤マル部分のデータを削除して、同じデータを分布図に示してみます。

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今度の分布図の線形近似曲線は、R―2乗数を0.393と示しています。なるほど、先ほどより1に近い数値になっていますね。前の分布図に示された近似曲線と、今回のものでは、今回の方がより傾向を正しく示していることになります。

今回は、R―2乗数の違いを見いだすために、分布図上で飛び抜けた結果を示すデータを削除してみました。しかし、実際のコストテーブルでは、上記に示した分布図に対して、「キーファクターの整理」というアクションが必要となってきます。コストテーブルの妥当性を確保する極めて重要な作業です。

性格が異なるデータを闇雲に分布図にして、近似曲線を描いたとしても、価格とキーファクターの傾向を正しく示すものにはなりません。従い、上記のような分布図を描いたら、それぞれの個々のデータに戻って、同列に並べて比較することに妥当性が担保されるかどうか、を検証する必要があるのです。これは、繰り返しますが今回の一連のコストテーブルの作成、そして活用の中ではとっても重要なプロセスです。というのも、先ほど内容の吟味無く飛び抜けたデータを削除することで、R―2乗数に表現される妥当性の数値を上げました。データの出し入れをおこなうことによって、コストテーブルの妥当性を向上させることが可能であることを御確認いただいたわけです。

コストテーブル論の冒頭で「コストテーブル的にはどうなんだ」と聞くバイヤーをコストテーブル原理主義者と呼びました。実際に私は、どう考えても妥当性の担保できない価格だけど、この金額でしか決められないな……といった案件を、データの操作によって妥当性をコストテーブル上でのみ実現させ、価格決裁の根拠にした経験を持っています。思い起こすのも忌々しい出来事でした。データの蓄積を日々おこなっている事を知る上司は、まさかそのような恣意的な操作を行なっているとは思いもよらないのでしょう。見積書に添付された資料の上では、この上なく妥当性が担保されています。エクセルを活用したコストテーブルの持つダークサイドです。しかし、コストテーブルを絶対視する残念な上司には、

・ほんとうの妥当性を追求する

・利用頻度を極力少なくする(私は数回で、すべて覚えいます)

との条件下では、このような使い方もアリかな、と考えています。しかし、そもそも妥当性のあるコストテーブルが無ければ、このような阿漕な真似もできないわけです。

さて、少し話が逸れました。数値上でも妥当性=傾向が見いだせない分布に対して、キーファクターの整理をどのように行なうか。エクセルの機能でいえば、

データの並べ替え

・データのフィルター

この2つの機能を活用して、それぞれのキーファクターの同質性が高いデータで、価格の傾向を判断する必要があります。ここで言う「同質性」とは、多くの場合、購入するモノ・サービスについての知識になります。製品知識です。

製品知識を駆使して、同質性を確保したデータの分布図を作成します。コストテーブル作成のほんとうの面白さは、ここからです。

<つづく>

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