コスト削減とは、そもそも作為的なものである。
コスト削減額の積算方法は、じつは各社全く違うのではないだろうか。私が経験したコスト削減額の決定方法は次の通りになる。
1. 前回購入実績と、今回購入実績単価との差額
2. 前年度購入実績価格と、今回購入実績単価との差額
3. 前年度購入実績をベースにした、今年度標準原価との差額
4. 売価から逆算した ビジネスターゲットと購入実績単価との差額
5. 見積金額と購入決定価格との差額
6. 一定期間内の購入額総額からの一括値引き
よくいえばケースバイケースだし、悪くいえば場当たり的、その場しのぎで低減額を算出している。ちょっと考えただけでこれだけの計算方法が思いついて、これとは別に、為替レートが関係する海外調達の円価での評価であったり、試作価格、量産価格それぞれの場合であったりなんて考えていると、自分でもいったいどれがセオリーなのかと途方にくれてしまう。
これだけの方法が出てくるには理由がある。簡単に言えば、社内でコスト削減に関する明確な定義が存在しないのである。だから、いろいろなケースを想定して、論理的な妥当性を持った基準をバイヤーが提示しなければならない。上記の例で言えば、調達部門に身を置く場合、5を除けば社内的にも評価できると想定される。5は、お手盛り過ぎる(しかし、私は5のケースが社内的に認定されたケースも経験している)
コスト削減額とは、企業が獲得した利益に、調達・購買部門として、どの程度貢献したのかを数値化したものである。この利益の為に、企業は一喜一憂し、利益確保のために日々努力を重ねる。読者のみなさんに自問していただきたい。調達・購買部門として、獲得した利益への貢献度が明確に提示できるだろうか。貢献度を主張する場合には、様々な軋轢が生まれるはずである。一番もめるのは営業部門ではないだろうか。しかし、この軋轢から目を背けてはならない。社内の仕組みを理解した上で、正々堂々と利益への貢献度を主張すること、これ以外に調達・購買部門の地位向上などありえないのである。
資材部門は社外へ自社のお金を支払うのが仕事である。支払ったお金の対価として、もの・サービスを受けとる。そしてバイヤーは、支払う額が適正であるか、そして一円でも支払うが額を少なくする=コスト削減のために存在するといって良い。
しかし、である。コスト削減額の責任を持たされ、未達成の場合は、その責任を追及される立場にありながらも、いつも思うのだ。いったい基準はどこなのかと。どの額を基点として、コスト削減額を弾き出せばいいのか。この問いに明確に答えられるバイヤーが果たしてどのくらいいるだろうか。本来的には、基準点を決めるのはバイヤーであってはならない。そんな自作自演で得られたものなど、企業経営の中ではなんら価値を持たない。逆に、この問いに明確に答えられるバイヤーがいる企業は、調達・購買部門が、社内的に良好に機能していることになる。しかし、だ。
コスト削減の基準点が曖昧だから、コスト削減をしないことが許される、バイヤーは存在ではない。基準が曖昧であるなら我々バイヤーは、時にコスト削減額の基準点を妥当性と説得力を持って、関係者に明示する必要がある。これには、自分が行っている業務に関する仕組みへの理解が不可欠なのである。仕組みを理解して、まずは利益への貢献度を社内的に主張できることが今、バイヤーにはもっとも重要なのだ。
前工程、後工程・・・私はメーカーに勤務しているので比較的違和感なく受け入れられる言い方である。「後工程はお客様」なんて言葉もあり、後工程への配慮、思いやりを示す為には、自分の工程と、後工程のとの関係、自分が行ったことが後工程の相手に及ぼす影響を知るために、仕組みの理解が不可欠である。
たとえばこんな言葉。「買掛金」「売掛金」
この2つの言葉は、その当事者の立場によって言葉が異なっているだけで、実態としての内容は変わらない。最近の進んだシステム化は、無知なバイヤーでこのような語彙を理解していなくても仕事を進められる。「実行」のキーをキーボードで押せば、価格決定そしてサプライヤーへの支払いに伴うバイヤーとしての責任を全うできるからである。
実際にどのようにして支払が行われるのか。現金なのか、手形なのか。最近の大手企業では手形の廃止に伴って、ファクタリングといった方法での支払いも増えている。そして、サプライヤーから納入の対価が、どういったルールによってサプライヤーに支払われ、どんなタイミングで現金化するのか。こういった部分への理解の有無で、サプライヤーから支払について問い合わせがあったとき、相手の持つ疑問に関するバイヤーの理解力に差が出てくる。そして、このことはサプライヤーへの回答力にも自ずと差として現れて、最終的にはバイヤーとサプライヤーの間の信頼関係構築にも影響を及ぼすのである。
仕事には、会社や所属する組織によって、ルールが存在する。例えば、ある価格決定を期日までに行うというルールがあるからには、なぜその様なルールが設定させるに至ったかの背景が存在するはずである。その背景への理解により、支払処理へ繋げるためには期日を守る必要があるとか、ある法律を遵守するための期日であるとか・・・そのルールの目的が理解できる。
普段でも定形外の対応が必ず発生する。それは自分のミスかもしれないし、サプライヤーから、社内の関連部門からのやんごとなき事情によるものまで数多の原因によりイレギュラーな対応が発生する。そんなときの対応能力も重要なスキルの一つであるが、ただ自分の持つ馬力に物を言わせて自分の処理のみに没頭し、その影響で社内外に迷惑を掛ける事は許されることではない。通常のルール外の処理を行うわけで、その通常と異なる処理での他への影響を考えなければならない。
そして、仕組みへの理解が重要なもう一つの理由が、仕組みを理解することで、改善への問題点も見出せることである。バイヤーでなくとも企業で働いているのであれば、今日1時間費やした仕事を、次回行うときは、いかにして59分で行うかを考え、新たなアイデアを生みだすことを日々追求しなければならない。ただ漫然と目の前に来た仕事を、見え得る範囲だけで処理して良いことにはならない。会社とは学校とは違うのである。起きている時間の半分を過ごす会社、社会に出た以降であれば人生の半分を過ごすことになるのである。仕組みを深く理解して、過ごす時間を価値ある時間にしなければもったいないのだ。
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