The対談 ~もう駄目だと思ったらどうするか? 1

●調達・購買部門を知らない新社会人

坂口:事務系の人間って大抵、営業部門を志望するでしょう? 営業部門を志望する一番大きな理由というのは、文系の社員が最初は営業部門しか知らないんですよね。財務部とか経理部とかって志望するやつって多分いないですよ。もっと分からなくて人気がない部門が、総務と調達。

牧野:(笑)残念ながら。

坂口:総務は、上場企業の場合、働き始めると「ああ、総会屋対策っていうのがあるんだ」って分かるんだけども、調達っていうのは、ほんとに入って社内研修を受けてもまだ分からない。だから、配属されたときに初めて「ああ、伝票を発行する仕事があるんだ」って分かるっていうのが、一般的だと思うんです。僕みたいにいきなり調達とか資材の仕事に任されたら、まず「営業というのは売るのが目的なんだけども、売れないこともあると分かっているから、ストレスはあまりない。だけども、調達というのは、必ず買ってこなきゃいけないから、ストレスっていうのは、これはもう尋常じゃない」なんて聞かされる。

自動車メーカーに移ったときも、資材担当者が、工場に入った瞬間にラインが止まっていると心臓が止まるって聞いたんですよ。「やべえ、俺が担当している部品のJIT納入が途絶えて、止まってるんじゃないか」って。

多くの場合はなんてことはない、チョコ停だったりだとか、あるいは計画停止だったり。あるいは、自動車って完全に全部バラバラにしていったら、5万点ぐらいで出来上がってるんで、その人が担当している率って結構低いんですよ。

だけど、「俺はこのまま消えてしまいたい」ぐらいのストレスを感じるのが調達部門。自動車の場合でいうと、50~60秒で数百万円っていうんですね。それくらいで一台が完成して出てくるので。だから、50秒止めるというのは、数百万円の機会損失と等しいと、目安としてはそう言われています。

●ダメにならないために

今日の対談タイトルである「もう駄目だと思ったらどうすか?」は、調達担当者としては、身につまるというか、胸に迫るものがあるタイトルだと思うんですけども、先生の近くでも、もう駄目だと思ったらどうするかではなく、もう駄目だと思ったまま消え去る人って多いですか?

牧野:多いですよね。非常に多くて……私は、もう駄目になっちゃったら駄目だと思うんです。なんか言葉遊びみたいですけど、そうじゃなくて、駄目になる前に自分でバランスをとるのがビジネスマンにとっては非常に重要だと思っています。大きく2つのパターンがあって、自分の思い通りにいかないというケースと、あともう1つは、自分が望まない大きな環境変化によって起こってしまうケース。環境変化によって起こるケースというのは、理不尽な長期海外出張や、組織変更で従来の仕事から外されちゃったとかっていう人がすごく多いんですね。

坂口:最初の自分の思い通りにいかないっていうのを、より具体例でいうと、どういうことになるんですか?

牧野:調達購買部門では、配属されたばっかりって、そんなに重要なメーカーって任せないでしょう? あんまり重要じゃないメーカーをまず任せて、この人は、ちゃんと仕事ができるかどうかを確認してから、ちょっと面倒くさいメーカーをやらせる。そのプロセスが我慢ができない。

自分としては、すごく大きなメーカーが担当できるんだ、世界じゅうを飛び回って、調達活動ができるんだっていう思いがあるんですけど、傍目で見ていると、「いや、あなた、その前にちゃんと毎日、会社に来ましょうよ」みたいな感じ。

坂口:なるほど。今、任されている簡単なメーカーがいるとして、そこが思い通りになってたら、メンタルを崩すって想像しにくいんですけど、何かがうまくいかないわけでしょ? それは何がうまくいかないんですか?

牧野:そうですね。著しく購入金額が低いサプライヤ、たとえば、年に数万円しか購入していないサプライヤに対して、「価格の交渉をするから、うちへ来い」と言ってしまう。相手は来ないですよね。

●海外出張の適性は胃袋と枕で決まる

坂口:なるほど。すなわち、人間関係的にいうことを聞いてくれないと。もう1つの環境変化のとこでも突っ込んで考えると、例えば長期の海外出張でも、仕事が2時間で終わって、あとは海外のハーレムで遊べるんだったら、メンタルヘルスにならないと思うんですよ。長期の出張で何が起きるから、壊れるんですかね?

牧野:シンプルに、食べ物が合わない、寝られないから。

坂口:まったく同じぐらいのレベルの人がいて、Aさんは、胃袋がすごく繊細、Bさんは、あんまり食事の好みもなく、かつ何を食ってもあまりよく分からない場合、たまたま胃袋の違いだけで、鬱病になるかならないかが決まってしまうと。

牧野:海外出張の適性は、繊細な胃袋よりも、ちょっと鈍感な胃袋を持った人のほうがあります。

坂口:某映画評論家のエッセイでこういうのがあって、「今からいう3つのうち、2つを身につけなくてはいけないと言われた」と。「1つ目がどこでも寝られる鈍感さ。もう1つが何を食っても大丈夫な胃袋。3つ目が喧嘩を売られたときに戦って相手を倒せる武力。この3つのうち2つは、最低限なければいけない」と言われたらしいんですよ。なるほどなあと思って。僕はたまたま何を食っても全然……味も分からない代わりに大丈夫なんですよね。

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